≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 シャンデは、ジェイナスたちに追いついたわけではなかった。大急ぎでシャトルを打ち上げさせ、中継ステーションでパトロール艇に乗り換えたところで、先行していた部隊から、問題のボートと接触したと連絡が入った。先行隊を追いかけながら、彼等に中継させて、投降するよう呼びかけたのだ。案の定、応答はない。

 もう一度警告を発しようとしたとき、異変が起きた。パトロール艇の次元空間機関が、駆動させてもいないのに、振動を始めたのだ。艇の発令室は騒然となった。近くでハイパードライブを使った宇宙船がいる。共振しているのだ。次元空間エンジンが暴走すれば、爆発を起こしかねない。何て危険な真似を。シャンデははっとして、先行部隊を呼び出した。

「目標のボートは?まさかハイパードライブに入ったんじゃないでしょうね。」
『違います。別の方向に、ハイパードライブから出てくる船がいます。我々と、秘書官の艇の間です。』
 センサーディスプレイを見る。大型の船が姿を現わした。あんな大きな船が惑星の人工衛星軌道上に、直接次元空間エンジンで乗り込んでくるなど、狂気の沙汰だ。どこのどいつだ―――。

 大型船が、周囲の空間に示威標識を打ち出した。信号弾の一種だ。それを見てシャンデは愕然とした。示威標識を使うのは、軍か警察に決まっている。
「星間警察。」

 星間連合の紋章が、宇宙空間にきらめいている。強制通信信号が入ってきた。艇長が戸惑いを隠せずにシャンデを振り向いた。
『こちらは銀河星間連合刑事警察機構。当機構の調査官、ジェイナス・ツインクルがこちらにお邪魔している可能性が高い。捜索の支援をお願いする。繰り返す―――』

 おしまいだ。シャンデは思った。いきなりツインクル調査官の名を出してくるなんて、全てを知った上でのことに違いない。眩暈がするのをこらえて、通信装置に手を伸ばした。まず、先行部隊に「目標」を確保する命令の撤回を伝達、中継ステーションへ帰還するよう命ずる。次に地上のキャリングスに連絡、警察庁長官に状況を報告してもらう。最後に、星間警察の船と交信―――手順を考えながら、シャンデは、自分が苦笑いしているのに気づいた。
終わりは、あっけないものね。

 幕切れは本当にあっけなかった。ジェイナスが捜査のため客船に乗ったところまでは、星間警察本部も把握していた。その後定時連絡が途絶えたところから、本部はすぐ行動を開始したのだ。客船の航路からプーマック星系に目星を付け、とりあえずやって来てこの軌道上の騒ぎを聞きつけた。威嚇のため、ハイパードライブを使って、わざと危険な出現をして見せた。ジェイナスの名前を出したのも、ほとんどハッタリだったのだ。
 ジェイナスやレイたちが送った「手紙」は、やはり届いていなかった。それは、プーマック警察が検閲したわけではなく、単純に、配送にいつもどおりの時間がかかっていただけであったが。

 星間警察の巡視船の繋留バースにボートを繋ぎ、五人は巡視船に乗り移った。念のため船外服を着たが、連絡通路から十分に与圧されている。二人の乗組員が、敬礼してジェイナスたちを迎えた。その案内に従って、船内を奥へ進む。
「船が大きいと、設備も立派ね。」
 きょろきょろしながらのイクミの言葉に、レイはちょっとすねたように答える。
「小型船は小型船なりに、効率よく設備を積むのさ。」

 通されたのは、発令所のようだった。船体内の中ほどにあるのに、昔からの習慣で艦橋とも呼ばれる。多くのオペレータが目前のディスプレイとにらめっこしながら、作業している。その真ん中の一段高くなった桟敷のような台上の人物へ、ジェイナスは敬礼を向けた。
「課長、お出ましいただいて、恐縮です。」

 相手は、台上から降りてジェイナスたちに近づきながらにっこり笑って軽く敬礼を返し、その手を差し出した。年齢の良くわからない小柄な女性だった。ジェイナスも手を降ろして、握手を交わした。
「お帰りなさい、ジェイ。無事で良かったわ。」
 レイたちにも握手を求め、「スズキ・ヒロミ」と名乗った。その女性が、ジェイナス直属の上司の「課長」だった。長い真っ直ぐな黒髪と黒い瞳。背はさほど高くないし、ずっと笑顔なのだが、妙に圧倒される。


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