≪レディ・ツインクル!≫  ■back  
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 レイたち四人は、いかにも警察風な質素な応接室に通され、船外服を脱いで一休みしたあと、再びスズキの前へ呼ばれた。待たされたのは、恐らくジェイナスの報告を聞いていたのだろう。今度案内された部屋は、執務室然とした小ぢんまりした、だが立派なしつらえの船室だった。本来船長室なのを、今回はスズキが乗るということで貸してもらったそうだ。「課長」という肩書きは、そんなに偉いのだろうか。
 
 コーヒーを振舞われて、ようやく一息ついた気分になったところで、スズキは、改めてレイたちに頭を下げた。
「ジェイに顛末を聞きました。調査官がたいへん世話になりました。ありがとう。」
 国際機関の(しかも警察の)エライ人とは思えない、気さくな話し振りだ。
「ほんとうに、ありがとう。」
 隣に据わったジェイナスも頭を下げた。濃い臙脂色のスーツに着替えている。顎の傷パウチも新しいものに交換されていた。

「いえ、そんな。成り行きというか、行きがかり上というか、こちらも勝手にやったことですから。それより、器物破損とか、ジェットヘリの窃盗とか、航空管制の無視とか…」
「今回は特別不問に付します。」
「え?」
 スズキはくつくつと笑った。
「被害者のはずのプーマック警察庁が、そう言って来ましたから、ありがたく従いましょうよ。私の方からは、お礼というか、経費というか、カードを用意しましたから。」
 レイはほっとしながら、
「いや、ボートの燃料を分けていただければ結構です。」
「欲がありませんね。確かに星間警察もそれほどお金持ちではありませんから、そう言っていただけるのはありがたいのですが、そう言っていただくほど多額なわけでもないんですよ。ごめんなさいね。」

「お二人の知己を得られただけで、十分な報酬です。」
 エレーヌが笑顔を上げて言った。
「あらあら、お上手だこと。」
「それより、ひとつ、教えていただけますか。プーマック警察はどうなるんでしょう。」
 今度はイクミが訪ねた。

「うーん、当分星間連合の監視下に置かれるでしょうけど、具体的な措置は、プーマック星系の国民が決めることだわ。」
「そんなものなんですか。」
「そんなものです。―――私もひとつ、聞いて良い?」
「何ですか?」
「あなたたちのボート、名前はないの?ジェイの話を聞いていても、ついに出てこなかったもの。」

 レイたちは顔を見合わせた。フィーが答える。
「結論から言うと、まだないんです。あれこれ考えてたんですが、なかなか決まらなくて。この旅行中にレイと二人で考えるつもりだったんですが――」
「あら、勝手な名前を付けられたんじゃかなわないわ。」
 イクミが遮る。

「だから、おまえのボートじゃないだろ。」
「あたしだって、結構手伝ったし――」
「まあまあ、わかりました。私も外観を見せていただきました。素敵な船ですね。」
「はあ、どうも。」

 レイは、世辞とは思いつつ、照れて頭を掻いた。
「私に名前を付けさせていただけませんか?」
「え?」
 これにはジェイナスを含めて、皆が驚いた。
「はあ、それは――」

「≪ツインクル≫という名は、今回の任務のためにジェイが与えられたコードネームなのです。ですから、もし次回あなたたちがジェイに会うことがあっても、そのときの彼女は≪ジェイナス・ツインクル≫ではありません。」
「はあ―――?」

「あなたたちとジェイの出会いを記念して、≪レディ・ツインクル≫――≪きらめきの女神≫。いかが?」
 ジェイナスは二度びっくりしたようだが、イクミたちの目には、驚きとともに満足の輝きが溢れた。

(完)


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