≪レディ・ツインクル!≫ ← ■back →
□何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。
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シャンデは、帰投するヘリコプタの中で報告を聞いて、しばし呆然としていた。
追跡を続けたかったが、燃料に限りがある。まあ、宇宙港を厳重に検問しながら、惑星中をしらみつぶしに当たれば、いつかは捕獲できるはずだ、そう考えていた矢先だった。宇宙港から入った連絡では、宇宙港の管制を無視して、単独機体で大気圏を脱出しようとしている小型ボートがあるという。間違いない、彼らだ。
「一体、何を考えているの。何て無謀なことを───。」
気を取り直して、衛星軌道上の中継ステーションに駐在する警官隊に、ジェイナスたちの身柄の確保を命ずる。同時に、シャンデ自身もステーションに行くべく、職権で、最優先でシャトルを用意させた。警察庁へ戻るつもりだったが、行き先を宇宙港に変更だ。
ボートが人工衛星軌道に乗ったとき、通常空間燃料は、計算どおりに残っていた。しかし、その軌道の周りは、すでに中継ステーションから飛び立ったパトロール艇が押し寄せて来ていた。
「すぐ囲まれるぜ。本当にこの状態で、次元振動エンジンを回して大丈夫なのか?」
「ちょっと誤算だったな。」
レイは頭を掻く。
「おいおい、誤算だけで片付くのかよ。」
「時間がない。データマトリクスは送ったぞ。」
「へいへい。」
そこへ衝撃が来た。まだ距離があるのに、発砲してきたのだ。思わず悲鳴が起こる。照明がまたあのオレンジ色に切り替わった。フィーは、次々に襲ってくる砲撃を、ヴァーニアを噴かしてかわした。燃料が残り少ないから無理をしたくないところだが、仕方がない。
「しまった、さっきの着弾でシールドにエネルギーを取られ過ぎた。次元振動エンジン駆動に足りねえぜ。」
「ジェネレータを過稼動させるぞ。不足分を補うまでなら、もつだろ。」
「早くしてくれ。」
もうひとつ、直撃を食った。ジェネレータのインジケータがすべて真っ赤になって、警告音が鳴り響いた
「だめだ。ハイパードライブは使えねえ。」
フィーが舌打ちをする。割り込み通話のサインが光った。
「どうせ、何を言いたいかなんて、わかってるけどな。」
言いながらレイが回線を開くと、もはや聞きなれた声が、響いた。
『ジェイナス・ツインクル、もう逃げられないわ。学生たちもこれ以上の違法行為をやめて、投降しなさい。』
「ちぇ、シャンデのねえさん、追いつくのがはえいや。でも、地上でもおんなじこと言ってたけど、逃げられたぜ。」
「あれは地上じゃなく、海上だったわ。」
「ここから見りゃ、海もやっぱり地面の一種さ。」
つまらない。
イクミの突っ込みを、うまく切り返す余裕を失っている。
『ジェイナス。すみやかに停止して、こちらの誘導に従いなさい。』
「宇宙空間で≪停まる≫ってのは、そっちが速度を合わせることだろが。」
「やだ、って返答しとけば良い?」
イクミが自分の席のマイクを取り上げた。
そのときだった。
ボートの次元振動機関が、≪何か≫に反応して動揺したように感じられた。艇体全体が、びりびりと小刻みに震える。
「何だ?」
「この軌道近くで、他に次元振動エンジンを駆動している奴がいるんだ!」
「何て危ねい奴だ。」
自分たちを棚に上げて、フィーは罵った。ボートを包囲しつつあったパトロール艇たちもまごついている。一体誰だ?
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