≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

47

 フィーとイクミは声を合わせて驚いた。ジェイナスも、声は出さないながら、目を見開いた。
「脱出した途端ガス欠で、お縄頂戴するまで軌道を漂流、だぜ。中継ステーションまでたどり着いたって、駐在警察官にとっ捕まるのがオチだ。」
「このボートのエンジンなら、計算上は、今の燃料で衛星軌道まで十分足りる。そこから強引にハイパードライブを駆動するのさ。」
「危ねえ奴だな。アーゴ星の引力の影響が強すぎるぞ。」

「このボートの次元振動エンジンは、周囲の引力の影響を最小限にするように調整してある。もしぶち壊れても、次元振動機関ユニットだけさ。」
「自信ありげだな。」
「九割がた、行けると思う。」

「レイ、このボートで、そんなことができるの?」
 さすがにジェイナスも心配顔だ。エレーヌは先に話を聞いていたらしく、微笑んでいる。
「できるも何も、他にやるとすれば、例えば…一旦街中へ紛れ込んで、IDとパスポートを偽造して、変装して旅客に紛れ込んで脱出するとか?このボートで飛んでった方が、話が早くて良いでしょう?」
 レイはにやりと笑いかけた。

「工学というのは、実は、理論と経費のバランスを取る学問なんです。理論的に可能でも、莫大な経費がかかるのでは実現しません。ユーザーが支払える程度の経費で最大の性能を引き出す、それが工学技術です。普通は工業製品としての歩留まりまで考えて、生産できるものが決まるわけです。
 ところが、このボートは試作品なんです。研究室の特許収入――ほとんど僕自身の特許ですが――をつぎ込んでできるだけの性能を追求しています。そこいらの出来合いの船とは、ちょっと中身が違うんです。
 もっとも、限界はありますし、ろくに試験をしていませんから、さっき言ったように、途中でぶち壊れるかもしれませんけどね。警察ビルまでぶち壊して来たんです、自前のボートを壊すくらいは、たいしたことじゃありませんよ。」

「ぶち壊したぶち壊したって、人聞きが悪いわ。他に言いようはないの?」
 イクミがふくれ顔で話に割り込む。
「壊したもんは壊しんじゃねいか。言いようなんかあるもんか。」
「フィーだって壊したでしょ。」
「そ。イクミと一緒にぶち壊したのさ。」
「もうっ!」

 この二人に付き合っていたのでは、先へ進まない。
「じゃ、時間も燃料ももったいないから、さっそく行こう。軌道データは、もう入力済みだ。」
「オーライ。みんなシートベルト、しっかりな。行くぜ。」
 フィーはすぐに反応して操縦桿に力を込めた。イクミはまだふくれていたが、口を開くのをやめた。上昇感が体を包む。宇宙港から衛星軌道への航路や、気圏内の一般航空機の航路は避けてある。艇体の揚力を利用して、斜めに上昇していく。大気がすっかりなくなった頃に、第一宇宙速度に達すれば良い。


 ■back