≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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「畜生、また外装版に穴を開けられちまった。」
 フィーは、ぶつぶつ言いながらも、ボートが飛び上がると同時に、天井にあたる、自分たちが乗り込んできた外部ハッチを閉じた。本来は非常脱出用のこのハッチから、乗り込む日があろうとは思っても見なかった。脱出用ってことは、一度開けたらもう閉まらないんじゃないかと疑いながら、密閉ハンドルをぎりぎりと回した。開く時は自動でも、閉じる方は手動なのだ。

「イクミ!フィー!」
 艇内へ通じる内部ハッチの外で、エレーヌのくぐもった声が聞こえた。こちらも手動のハンドルを回して、扉を開けると、エレーヌの笑顔があった。海水も一緒に床へ流れ出したが、気にもせずにイクミはエレーヌに抱きついた。ついさっき別れたばかりだったはずだが、何だか何日も経ったようで、とても懐かしい。

「イ、イクミ、苦しいわ。」
 苦笑しながら、エレーヌはびしょぬれのイクミの手をほどいた。ハッチを出た通路も、まだ広くはない。
「ごめーん。」
 四人は非常脱出口からリビングユニットに出て、やっと一息ついた。エレーヌが、準備していたタオルと着替えを出した。

「ジェイ、私の服を使ってください。ちょっと小さいかも知れませんが。」
「ありがとう。」
「フィーはコクピットへ行って着替えて。さっさと。こっちは乙女の領域。」
 エレーヌに着替えを押し付けられ、追い立てられるようにしてコクピットへ入ると、レイはフィーを顎でいざなった。

「お、メインパイロット君、操縦を代わってくれたまえ。」
「お安い御用でさあ、キャプテン君。ただし、着替えるまで待ってくれよ。」
 すぐに着替え、タオルをかぶったまま席に着いて、ベルトを締める。主パイロット席にはレイが座っているので、隣の副パイロット席だ。

「やれやれ、無事だったか。まさかほんとにこんなに早くジェイを助けてくるとは思ってなかったぜ。」
「イクミに言ってくれ。操縦系、オーケイ。」
「オーケイ、操縦任せた。」
 
 リビングでは、イクミが、着替えながらしみじみと言った。
「ジェイ、無事で良かった。」
「ありがとう、と言いたいけれど、あなたたちときたら。私のメッセージを読んだんでしょ?」
「ええ。」
「なぜすぐ星間警察本部へ行ってくれなかったの?こんな危ないことをして。」

「行こうとして、離陸許可まで取ったんです。でも、そこへ警官たちが踏み込んできて。あとは仕方なく、です。」
 ジェイナスはもうひとこと言いかけたが、やめて溜息をもうひとつついた。
「さあ、みんなコクピットへ行きましょう。まだ逃げ切ったわけじゃないのよ。」
 イクミがいつか使った「非常用吸引廃棄装置」で海水を始末し終わり、エレーヌが促した。

 ぞろぞろとコクピットへやって来た女性たちに、レイが声をかけた。
「やあ、お帰り。さて、ジェイ、僕たちのボートへ再びようこそ。」
「ありがとう。でも、あなたたちにはこんな危ないことに首を突っ込んで欲しくなかったわ。」
「そんなことを言うのはまだ早いですよ。追われてる状況はあまり変わってないんですから。」

 レイたちは、カタパルトの順番待ちの間に警察に囲まれてしまい、逃げ出したことを、フィーたちは、警察庁のビルに侵入したこと、最上階の制震装置の水槽を壊して、どさくさ紛れにジェイナスを助け出したことなどを手短かに報告しあった。ジェイナスは半ば呆れながら、黙って聞いていた。

「これからどうするかなんだが。」
「大気圏内を宇宙船でうろちょろするなんざ、情けなくって涙が出るぜ。」
「そのとおりだ。だからこの際、ボートの積載燃料だけで、大気圏を脱出する。」
「なにい?」
「ええー?」


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