≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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「目標が転針、真北を指しています。」
「追いつけないの?」
 シャンデは、さっきも同じようなことを訊いたな、と自覚しながらパイロットに尋ねた。シャンデの乗ったジェットヘリコプタは、ツインクル調査官たちを追う各署のヘリコプタから、さらに遅れて追跡に加わっていた。

「ですから、何度も言うように、目標と本機の二機が、我が警察庁にとっては最新型、最速の機体なんです。これ以上早い機種を、我々は持っていません。」
 パイロットも、さっきと同じような答えを、淡々と繰り返した。シャンデはそれ以上何も言わず、下の海面を見た。

 生まれ故郷のこの星のために、この星で暮らす人々に豊かな生活を送ってもらうためにと考えて、ここまでやってきた。本当にこれで良かったのだろうかと思うこともあったけれど、世の中はきれいごとだけでは成り立たないと割り切った。だがそれも。

 今までは、「組織」の連中を見逃すだけだった。積極的に捜査をしないだけのことだった。
 でも今回は違う。調査官を監禁して自白剤を投与するなど、明らかに星間警察に楯突く行為だ。国際社会に唾することになる。私は今、ここで一体何をしているのだろう。私はこのまま、どこまで行ってしまうのだろう。抜けるような青空の下だというのに、眼下に広がるショカヌフの海は、シャンデの心を映すかのように黒々と深く、とろりと重い。

 一方、追われるフィーたちも必死だ。スロットルを全開にしたまま、どのくらい飛んだだろう。エレーヌから指示された座標まで、燃料が間に合うかどうか怪しい。しかし、追っ手が迫っている以上、選択肢は他にない。肉眼では見えないが、レーダースクリーンには、距離を空けずに追って来る輝点が消えることがない。

「来たっ!」
 イクミはぶうんと音をたてて着信を告げる携帯端末を広げた。もう位置が割れることには全くかまっていない。距離が近いから、もう音声でも十分だ。
「一分後に接触できるわ。」
「了解。」

 レーダーにも反応が見えている。フィーは、高度をぐいと下げる。前方少し右手に、派手な水柱が上がるのが見えた。
「あれよ!」
 イクミが大声を上げた。小型ボートが着水したのだ。水柱を立てながら海上をしばらく滑走して、止まった。その艇体にヘリコプタを近づけていく。


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