≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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「学生たち!おまえたちは、自分たちが何をしでかしたか、わかっているのか!」
 キャリングスは、さっきも聞いた台詞を繰り返した。イクミは、信号弾銃を引き抜きざま、そのキャリングスの方の床に向けて、迷わず引き金を引いた。どん、と鈍い音がして、二連装のうちの一発がイクミの足元からもうもうと白い煙を撒き散らしながら、ヘリポートの床を走った。

 弾丸は、すぐ途中で橙色と緑色の火花と大量の煙に変わり、警官たちの中を突っ切り、キャリングスの脇を抜けて、屋上を飛び出すと、その先の空中で派手な光と音を発して弾けた。警官たちは、多分丸腰だろうと思っていた相手の予期せぬ反撃に、度肝を抜かれてひるんだ。
「イクミ、早く!」
「言われなくたって!」
 イクミはフィーの隣席へ飛び乗った。

 そのままもう一発、信号弾を放つ。今度は、さっきよりもっとキャリングスの近くをかすめた。
「うわあっ!」
 キャリングスは、思わず悲鳴をあげる。そこいら中が、信号弾の吐き出した白と橙色の煙で見えなくなった。煙を吸い込んでしまった警官たちが、激しく咳き込む。

「う、撃て!いや、撃つな。」
 こんな視界が効かない状態で銃撃したら、同士討ちの虞がある。
 フィーは、ローターのピッチを思い切り上げた。うろたえたキャリングスの声を遮るように、ヘリコプタの爆音が大きくなる。煙を吹き払いながら飛び上がった機体をみて、キャリングスは怒鳴った。

「逃がすな、撃て!撃ち落とせ!いや、なるべく壊すんじゃないぞ!」
 何丁ものアサルトライフルが、ヘリコプタを狙ったとき、機体は信じられないような小さな弧を描いて反転し、警官たちの頭上に迫った。連結されたままの電源ケーブルが、機体をそれ以上ヘリポートから離そうとしなかったのだ。ヘリが自分たちの方へ墜落してきたように見えて、警官たちは悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 がくり、と機体を引っ張られた感覚で、フィーは、電源ケーブルを連結したままだったことに気づいた。我ながら間抜けだ!切り離しスイッチを叩く。機体は途端に自由になって、その代わりに放り出されるようにバランスを崩した。ヘリポートの床へ激突しそうな体勢から、くるくる回転しながらあっという間に屋上の横へすべり出る。その姿勢のまま、ぐっと高度を上げ、はるか上空へ逃げ去った。実は自動姿勢制御装置のお蔭で、不安定に見える姿勢のままでも、不自由なく飛べるのだ。


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