≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 屋上には、キャリングスがジェイナスを迎えに来たときのジェットヘリコプタが鎮座していた。いや、違う機体かも知れないが、少なくとも同じ機種だ。宇宙大学でも同型機を見たことがある。メインロータが二重反転式なのに、テイルロータがあるのが、イクミには不思議に思える。ヘリコプタのドアにはやはり鍵がかかっていた。
「今度はドアを切り取らないでね。飛んだとき寒いわよ。」
 ジェイナスは、笑いながら言った。
「大丈夫。ほんとは色々用意して来てるんだ。」

 イクミはウィンクして、ポケットから鉤型の針金状のものを取り出した。先っぽを電子ロックのパネルの端に突き立ててカバーを外す。内部の回路を検分しながら鉤型を口にくわえ、今度は自分の携帯端末から細いケーブルを二本引っ張り出して、端子に繋ぐ。

 フィーは辺りを見回して、電源を探した。機体の蓄電池でエンジンを始動することもできるはずだが、一国の警察庁のヘリポート設備なら、外部電源の支援くらいあるだろうと考えたのだ。何のことはない、機体の電源コネクタの真下に、蓋があって、開けてみると、電源ケーブルを引き出せるようになっていた。

 フィーが外部電源を連結し終わると同時に、携帯端末のキイボードを操作していたイクミの脇で、コン、とロックのはずれる小さな音がした。
「オーケイ。」
 ウィンクしたイクミに、フィーもウインクを返して、ドアを開けた。一動作で乗り込み、すぐにイグニッションボタンを押し込む。最前列は複座なので、ジェイナスは後席に乗り込んで、シートの間からフィーの手元を覗き込んだ。

 エンジンはすぐに始動した。ゼロピッチのまま、回転数を上げていく。イクミは、電子ロックのパネルを元どおりはめ込んでから、フィーの隣へ乗り込もうと、ステップに足を掛けた。
 そこに大声が響いた。
「動くな。銃で狙っているぞ。ヘリから降りろ。」

 ジェイナスたちが上がってきたのと反対側にも、階段があるらしい。ずぶ濡れのまま拡声器を構えたキャリングスを先頭に、わらわらとサングラスの警官たちが現れた。イクミは、やはりサングラスは制服の一部なんだ、と思った。
 手に手にアサルトライフルを持って、こちらを狙っている。武器の有無を疑ってか、銃を腰だめにして、少しずつ近づいて来る。イクミたちが上がってきた階段の方からも、警官が何人か顔を出した。下への退路は絶たれたようだ。

「ちょっと、時間が足りなかったか。」
 残念そうにジェイナスがつぶやく。イクミは、観念したような表情で、ステップからゆっくりと片足を降ろした。それを見てキャリングスは、満足そうに口の端を上げる。イクミは、シートに掴まるようなふりをして、素早くシートの下に手を突っ込んだ。
(あった!おんなじだ。)
 手には、工学部総務課のヘリと同じ場所に装備された、信号弾銃の感触があった。


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