≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

39

 ジェイナスは、キャリングスが手にしたディスクを、目を細めて眺めていたが、首を横に振り、
「知らない。」
とだけ答えた。
「こいつが、本当のことを言っているのか、クスリが効いてなくて、嘘をついているのか、どうやって判断するんだ?」
 キャリングスは、シャンデを睨みつけて、怒鳴った。

 その途端、ジェイナスの向こう側のあたりの天井から何かが突き出した。続いて轟音とともに、大量の水が流れ落ちて来る。濁流は、崩れ落ちた瓦礫とともに、床まであるガラス窓を突き破り、65階の空中へ吹き出した。キャリングスもシャンデも、他の部下たちも、何が起こったか理解できないうちに押し流され、かろうじて窓枠に掴まって外にぶら下がった。容赦なく水が降り注ぎ、手が滑りそうで、身動きができない。

 下を見ると、身がすくんだ。
「た、助けてくれええ!」
 キャリングスの情けない声。必死にしがみついていると、ようやく水量が減ってきた。しかし、びしょぬれの衣服が重くて、なかなか部屋に這い上がることができない。

「大当たりだったね、ジェイ。」
 イクミが天井の穴から飛び降りた。後からフィーも降りてきた。
「イクミ!フィー!何てことなの。」
 ジェイナスが驚きの声を上げた。

「何言ってんだイクミ。一歩間違えたら、ジェイが瓦礫の下敷だったじゃねいか。それに、水と一緒に、外へ押し流されてたかも知れねい。」
 実際は、水は浴びたものの、椅子が床に固定されているせいで、押し流されはしなかったのだが。
「ま、いーからいーから。」
「良いわけねいだろっ。」

 言い合いながらも、イクミとフィーは、電磁ナイフで手早くジェイナスのいましめを切った。
「ジェイ、大丈夫?」
「ありがとう、と言いたいところだけど、何て無謀なことをしてくれるの。」
「すみません。」

「おまえたち、学生たち!自分たちのしていることが、わかっているのか?」
 キャリングスが、ぶら下がってもがきながらわめいた。
「放っておきなさい。こっちよ。」
 ジェイナスは、廊下へ出て、突き当たりの階段室に入った。多少足許がふらついているものの、長い間縛り付けられていたとは思えない速さで、階段を駆け上がっていく。さっきフィーが反対側から空けてみたドアを横目に、さらに上へ向かう。

 屋上に出るドアには、鍵がかかっていた。ジェイナスは電子ロックのパネルを外そうとしたが、
「こっちの方が早いよ。」
と、イクミが電磁セラミックナイフを振るった。ジェイナスは呆れて、
「まったく、過激なお嬢さんね。」
苦笑しながら、ドアに穿たれた大穴をくぐった。


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