≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 シャンデは迷っていた。あの学生たちは、どうも信用できない。そもそも本当に学生だろうか。プーマック警察の「裏の仕事」に、うすうす感づいている様子だが。黒髪の小娘の慇懃な態度も気に入らない。だが、ディスクの中身まで偽物だとは限らない。先に内容を確認してから局長を呼ぶべきか。それとも、局長を呼んでおいて、一緒に確認するべきか。いや、ウイルスやトラップが仕込んである可能性もある。調査官が仕掛けたか(その場合、中身は本物の可能性あり)、学生たちが仕掛けたか(その場合、中身は多分、偽物)は別としても。
 やはり、まず確かめてからだろう。

 執務室の端末機に、ディスクを噛ませる。読み取り不能。予想通りだ。あの手この手で攻めると、空っぽでないことだけはわかった。何かが記録されている。さて、次にどこから攻めようか。シャンデは次第に、ディスクを開く試みに没頭していた。いつの間にかずいぶん時間が経っていたようだ。
 次のトライアルを考えようと腕組みをしたシャンデの気持ちを削ぐように、大声でキャリングスが部屋に入って来た。
「あの学生たちが、調査官の忘れたディスクを届けに来たんだと?例の記録かも知れないんだな?」

 誰かが、余計なことを局長に報告したな。内心腹を立てながら、シャンデは端末機を指した。
「内容の分析をしているところです。当然ですが、そのままでは開きません。罠という可能性も十分にあります。」
「おお、ちょっと、そのディスクを見せてくれ。」
 間接記録媒体を、肉眼で見たって、何の意味があるんだ。印刷物のような直接媒体だって、暗号化されていたら、素人には意味をなさないのに、増してや。

 ―――とは口に出さずに、シャンデは、汎用データディスクをスロットから引き抜いて、キャリングスに渡した。彼は、それを矯めつ眇めつ見ていたが、急にシャンデに視線を戻した。
「自白剤の調子はどうだ?」
「バランスよく処方できたと思います。すぐ試すつもりだったのですが、そのディスクを持ち込まれたものですから――」
「よし、それを持って、君も来たまえ。」
 キャリングスは、そう言って踵を還した。

 シャンデも、慌てて処方したクスリと高圧注射銃を持ち、局長の後を追って執務室を出た。歩きながら、局長は、あのディスクを使ってもう一度調査官を尋問する気だとわかって、気が滅入った。あんなもの見せたって、読み出せてもいないのだから進展するわけがない。シャンデの思いを知る由もなく、キャリングスはエレベータで65階へ上がり、ジェイナスを拘束している大会議室へ入った。シャンデも続いて入ると、部下は言いつけどおり交代で見張っていたらしく、男女一人ずつが立ち上がった。

「調査官の具合はどうだ?」
「先ほどから気を失ったままです。」
 女性の方が答えたその声にかぶせて、ジェイナスが口を開いた。
「あーあ、だいぶ休ませてもらったわ。でも、できれば手足を伸ばして、もっとゆっくり昼寝したいんだけどな。」
 キャリングスはちょっと驚いたようだったが、すぐに、にやりと笑って言った。

「さっきの自白剤は、効き目が切れたようですな、調査官。レイチェル、お代わりを差し上げなさい。」
 シャンデは、薬剤を注射銃に装填すると、もう一度、ジェイナスの腕に当てて引き金を引いた。ジェイナスは、痛みに耐えるような表情で、目をつぶった。しばらくすると、額に脂汗がにじんで来た。今度こそ、効果が出ているようだ。
「さて調査官。ドルフムトワの学生たちのボートに、お忘れ物をなさいませんでしたか?例えば、こんなディスクとか。」
 キャリングスは、手にした汎用ディスクを、ジェイナスの目の前で振って見せた。


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