≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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「私たちはここで待っていますから。」
 監視の警官たちは、そう言ってロビイへ別れた。思ったとおりだ。縄張りというか、守備範囲があるのだろう。
 エレベータで63階を目指す。高速エレベータだ。あっという間に着いた。ジェイナスは、今もあと二階上にいるだろうか。ケージを降りると、左手の方に受付カウンタが見えた。一階と似たようなレイアウトだ。一階のロビイに当たる位置には、執務室らしいドアが並んでいる。カウンタの女性は、警官の制服ではなかった。薄い薔薇色のスーツに、同色系のスカーフが清楚な感じだ。無論、サングラスもしていない。

「イクミ・アーヴィングと申します。レイチェル・シャンデさんにお会いしたいんですが。」
「受けたまわっております。一番奥のドアへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
 イクミは、頭を下げながら、受付嬢が左手を上げて示す方へ足を向けた。フィーも、軽くお辞儀をしてそれに続く。指示されたドアには「調査部 秘書官R・シャンデ」と書かれたプレートが貼り付けてある。

 ノックすると、
「どうぞ」
と声がして、ドアが開いた。意外と広い部屋だ。手前に応接セット、奥には、壁全面のガラス窓を背にして、三方をコンソールで囲まれた執務机が置かれている。ガラス窓の外は、なるほど、63階からでも素晴らしい眺望だ。机の向かう側に立ち上がった赤毛の女性が、こちらへ近づいて来て、笑顔で右手を差し出した。淡い橙色のスーツが決まっている。
「初めまして、レイチェル・シャンデです。ようこそ、ミズ・イクミ・アーヴィング、ミスタ・フィークラック・フィン。」

「初めまして。ずうずうしく訪ねて来て、ごめんなさい。」
 イクミは、シャンデの手を握り返して言った。シャンデは、フィーとも握手して、
「座って頂戴。今、飲み物が来るわ。」
 言うそばから電子音が鳴って、壁の一部が光った。シャンデが立って行って、そのそばに触ると、光った部分はハッチになっていて、するりと開いた。中から、湯気の立つコーヒーカップ三客が載った盆を引き出し、イクミたちに振舞った。

「昨日はご苦労様でした。調査官は、あなたたちに挨拶せずに出発しなければならないことを、とても残念がっていました。」
「私たちも残念です。ところで、こうして押しかけてきた用件なんですが、実は、私たちのボートでツインクルさんが使っていた個室を掃除してましたら、ベッドマットの下からこんなものが出てきたんです。」
 コーヒーに手もつけずに、イクミは切り出した。上着のポケットから引っ張り出したのは、汎用データディスクだ。

「私たちのものではありませんから、ツインクルさんの忘れ物かなと思いまして。」
「まあ、それはそれは。」
「何だか、いつも案内をしてくださるお巡りさんたちに預けるのは、かえって仕事を押し付けるようで、申し訳ないような気がして、ここまで来てしまいました。失礼だったかも知れませんが。」
「ええ、もちろん、失礼なんてことはありません。わざわざありがとう。私が預かって、調査官に届くように手配しましょう。」


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