≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

32

 やがてレイとエレーヌが帰ってきた。出国審査も簡単だったという。出国先は、ウォナスなどと書いては疑われそうなので、ドルフムトワへ帰ることにして申請して来た。
「じゃあ、イェライデュウの方は任せたよ。あたしたち、街へ行くね。」
「ええ、ゆっくりして待ってて。超特急で戻って来るわ。」
「ジェイナスを無事に助けて、燃料代を払ってもらわなきゃな。」

 フィーとイクミは、エレ−ヌたちにしばしの別れを告げて、タラップを降りた。護衛の、いや監視の警官が声をかけて来る。
「今度はこちらのお二人でお出かけですか。」
「ええ。」
「ご案内いたします。」
 前にも聞いたようなセリフ。これすらもマニュアルにあるのだろうか。

 パスを使ってゲートを出ると、モノレールで一駅、また中央警察庁の前を通ってホテルにチェックインした。警官たちは部屋の前までついて来る。ご丁寧なものだ。取ったのはシングルルーム二つだが、まず二人で一室に入った。例によって、二人のパスを備え付けの冷蔵庫にしまい込むと、監視の警官を尻目に、もう片方の部屋に移る。荷物をベッドに放り出すなり、イクミは作り付けの端末機に飛び付いて、自分の携帯端末を接続してから、電源を入れた。

 入った部屋がわかっているのだから、この端末は監視されていると見て良いだろう。無難なところで、観光案内や行政機関の公共データベースにアクセスする。その辺をうろうろすると見せかけながら、あっという間に制御言語レベルへ潜り込んで、ダミーを挿む。この辺はイクミの独擅場だ。フィーはその後ろに立って、毎度のことながら見事なハッキング振りに見とれていた。

 携帯端末からでも侵入はできるが、多くのダミーを操るには容量が少々心もとない。部屋の端末機に、それを補わせている格好だ。イクミが狙っているのは、中央警察庁ビルの設計図面だ。それは、プーマック星系でも一二を争う有名建築設計・施工監理事務所のデータベースに保管されていた。ファイヤーウォールは、意外とあっけなくイクミを通した。

 そのデータベースには、施工途中の設計変更データから、内装、電装などの業者に関するデータまで完璧な記録を残してあった。この設計・施工監理事務所は、噂にたがわず優秀なスタッフを確保しているらしい。部屋の間仕切りや、配線、配管、さらにエレベータや電装関係など、必要と思われるデータを携帯端末に素早くダウンロードすると、痕跡を消しながら戻った。

「さすがイクミ。鮮やかなお手並みだ。」
 フィーは思わず誉めた。
「えへ、あたしって、すごい?」

「うん、すごいすごい。」
「ほんと?」
「ああ。畏れ入った。」
「へへっ。」

 顔を赤らめて、舌を出す。いつになく素直なイクミはなかなかかわいいが、まだまだ子供だよな、とフィーは思う。イクミは、フィーの感慨に気づきもせず、手に入れた警察庁ビルの建築物情報と、公表された案内図をつき合わせて言った。
「さあ、作戦の立案を続けましょ。」


 ■back