≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

30

 もともと狭い部屋の中は、ベッドの上まで電子部品、機械部品でいっぱいだった。床が見えない。部品に埋もれるようにして、イクミは何やら工作に熱中している。
「おまえ、このボートはまた宇宙へ上がるんだぜ。こんなに細かいものを散らかしてたら、いかんだろうが。」
「ん」
 気のない返事。
「残るって言い出したのは、イクミだろ。用意はできてんのか?」

 それには答えず、顔を輝かせて振り返った。
「これ、思ったよりずっと良いできになったわよ。さっきパスを裂くのに使って見せたでしょ。」
 さっきの薄刃のセラミックナイフを振って見せる。
「セラミックの一種なんだけど、電圧をかけて活性化してやると、信じられない切れ味なのに、電圧を切るとろくに切れない。電子的に刃の縁を制御するのよ。」

 イクミは興奮気味だ。
「今朝、街のショッピングモールの裏通りで、掘り出して来た中にあったの。これだから、ジャンク屋あさりはやめられないんだなあ。」
「わかったわかった。でも、アーゴに残る準備もしてくれよ。」
「あら、これも準備のひとつよ。」
「準備だってえ?」

 フィーの声は、思わずひっくり返った。イクミは気にしたふうもない。
「相手は飛び道具を持ってるのよ。武器のひとつくらい、あった方が良いでしょ。このナイフにくっつける圧電装置を、もっと強力なのに作り直してたのよ。もう一本、フィーの分も作ったよ。」
 そう言って、銀灰色のナイフをフィーに向かって放った。
「スイッチを入れたまま、ケースに入れちゃだめよ。ケースを切り裂いて、落ちてしまう。」
 受け止めて見ると、刃の部分は、柄や刃と同じ銀灰色の薄い鞘に収まっていた。

「ナイフは、もうできたから。ちょっとだけ待って。」
 言うが早いか、そこら中に散らかっていたわけのわからない部品の山を、あっという間に大きな布袋に押し込むと、ロッカーに片付けた。入れ替えにロッカーから出したバッグを肩に担いで、
「お待たせ。」
と、フィーに向き直った。いつもながら、イクミの行動の早さには舌を巻く。

「レイたちが帰ってきたら、すぐでかけようよ。まずは、今夜の宿を確保しておかなくちゃ。」
 はやるイクミを、フィーが制した。
「さっき、予約しといたよ。中央警察庁のすぐそばだ。そう慌てるな。」
「そうか、パスを持って歩くようになると、相談事もできなくなっちゃうね。作戦を立てようよ。」
 イクミは、汎用メモリディスクを取り出して、にっと笑った。

「やっぱり何かやらかす気だったんだな。何が、おとなしくしてるもん、だ。」
「おとなしくやるもん。」
「うー」
 イクミ相手では勝てない。
「監視の警官たちって、あたしたちが素人だと思って、あんまり厳しく見張ってはいないと思わない?」
「そういえば、きっちりやってるようには見えるけど、どっかマニュアルどおりって感じがするな。」


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