≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

24

「ちょっとお待ちください。」
 そう言うと、警官はドアの前で外を向いて立ち、ヘッドセットで小声で通話を始めた。そうしているうちに、モノレールは次の駅に着いてしまった。
「さ、行こう。」
 イクミは、警官の脇から、さっさとプラットフォームへ降りた。他の三人も続いて降りた。警官たちは、仕方なく着いてきた。

 警官の一人はまだヘッドセットと対話しているようだが、四人はかまわず、イクミを先頭に駅の建物を出て、ペデストリアンデッキの先に屹立している、プーマック中央警察庁ビルへ向かった。地震が多いはずのこの土地で、これだけのビルを建てるには、どんな建築技術が必要だろう。歩きながらレイは、ビルを見上げて思った。

 広い石段を登ると、入り口の両側にやはり制服の警官が立っている。同じ制服を従えているためか、特にこちらに注意を払うふうでもない。建物に入ると、天井の高いホールになっている。左手側はロビーになっているが、いくつもあるソファに人影はない。右手の案内カウンタに、制服の男女二人が座っていた。建物の中だというのに、二人ともサングラスをしている。どうやらここの警察は、サングラスも制服の一部らしい。

「こんにちは。」
「はい、どのようなご用件でしょうか。」
 イクミの挨拶に、男性の方が立ち上がって訊いた。
「昨日到着した星間警察のジェイナス調査官は、おいででしょうか。」
「失礼ですが、あなたはどちら様でしょうか。」
 四人の後ろの警官たちに、ちらりと顔を向けながら訊き返す。もっとも、サングラスのせいで、実際の視線はわからないのだが。

「その調査官をここにお連れした、宇宙大学工学部の学生一同です。私はイクミ・リーヴィア・アーヴィング。」
 ついでに、パスを彼の目の前に掲げた。あてつけのつもりだ。それにしても、イクミの傍若無人さは、こういうときには頼もしい、と、本人が聞いたら殴られそうなことを、フィーは思った。横を見ると、同じことを考えているらしいレイと目が合い、お互い苦笑した。
「少々お待ちください。」

 案内カウンターの警官は、特に表情も変えず、手元のコンソールをいじる。隣席の女性警官は、こちらを向きながらも、黙っているだけだ。男性警官は顔を上げて言った。
「ツインクル調査官は、今朝早く星間警察本部へ向けて発たれました。」
「えー?まさか!」
 警官は、頓狂な声を出したイクミにも動ぜずに、繰り返した。
「調査官は、今朝早く星間警察本部へ向けて発たれました。他には?」

 木で鼻をこくるとはこういうことか、と思いながら、レイは前へ出た。
「僕たちに何か伝言はありませんか?」
「ございません。」
「そんなはずないよ。出発前に必ず私たちに会いに来るって言ってたのよ。」
 つかみかからんばかりのイクミを、レイが引っ張って止めた。
「よせよ、イクミ。きっとすごく急いでいたんだよ。」


 ■back