≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

22

 残りの荷物を運び込むために、もう一度タラップを降りて行ったフィーを残して、イクミとエレーヌは真っ直ぐキッチンユニットへ向かい、首からはずしたパスを冷蔵庫へ放り込んだ。多分、ここが一番密閉されている。リビングユニットに置いてあったフィーとレイの分も、同じように冷蔵庫に入れてしまった。そこへフィーが戻って来た。
「レイは?」
「後ろだ。動力ユニット。」

「そうね、動力ユニットの方が安心かも。行きましょ。」
 大量の荷物はリビングに置いたまま、エレーヌはフィーを引きずって、後部の動力ユニットへ向かった。無論、イクミも従う。
「ただいま、レイ。」
「おう、お帰り。こっちもおおむね終わりだ。」
「大事な話があるの。」

 四人は、動力ユニットの狭い点検スペースで、文字通り額を付き合わせる格好になった。いかにも秘密の話を始めるのにふさわしい雰囲気だ。
「穏やかじゃないな。」
 眉を顰めるレイにかまわず、イクミが待ちきれなかった様子で、エレーヌに聞いた。
「ねえ、実はどうだったの?」

 ショッピングモールで、イクミが出し抜けに走り出したときの様子を訊いているのだ。ここまで、聞く暇はなかった。
「あなたが走り出した途端、一人が銃を抜いたわ。」
 エレーヌは声を潜めて言った。ある程度予想してはいたが、イクミは声を失った。

「おいおい、何がどうしたってんだ?」 
「ここの警察は、どうも腑に落ちないわ。私たちの買い物の案内なんて、まるっきり監視だったのよ。」
 今度はレイとフィーに向き直る。
「ああん?」
 まるでわけがわからない二人に、エレーヌは、自分の不安を話し始めた。

「この穏やかな国で、護衛している客が走り出しただけで銃を抜くなんて、絶対変だわ。ここの警察って、何か星間警察と敵対関係にあるんじゃないかなって。」
「警察がそういう厳しい体制だからこそ、平和な国なのかもしれないぜ。考え過ぎじゃあねいかい?」
「そうかも知れない。私の勘でしかないけど。でも。」
 ちょっと言葉を切って、また続ける。

「ジェイが気になるわ。訪ねて行って見ちゃ、だめかしら。」
 レイとフィーは顔を見合わせ、少し考えた。
「星間警察と地元の警察が敵対するってえと、縄張り争いみてえなものか?」
 フィーが聞くと、エレーヌは、
「ちょっと違うような気がするけど、近いかも。」
 目を伏せる。

「わかった。何だか良くわからないが、行ってみよう。」
「ああ。口実はあるんだ。行って、乗船賃を請求しようぜ。」
「待って。その前に確かめることがある。」
 イクミはキッチンに戻ると、冷蔵庫から自分のパスを出してきた。すっかり冷えて、手に心地良い。 皆は、リビングユニットでイクミを囲むように座り、彼女が始めた作業を無言で見守った。


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