≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 ショッピングモールも混雑していた。リゾート地らしく、お土産物屋が大多数だが、食料品から普段着、家電製品まで、ありとあらゆるものが売られている。集まっている人々も、観光客だけでなく、いかにも地元のお父さん、お母さんたち、という風情が結構混じっている。
 イクミが突然走り出した。人ごみを器用に縫って、小柄な姿はたちまちエレーヌの視界から消えた。警官の片方が慌てて走って追いかけ始めた。そのときエレーヌは、彼がすばやく小型拳銃を抜いて右手に握ったのを見逃さなかった。

 イクミはほんの五十歩ほど前で立ち止まっていて、追いかけるというほどのこともなく追いついた。エレーヌは、ウインクして、イクミに実験の成功を知らせた。それにしても、打ち合わせしたわけでもないのに、イクミときたらすぐこういう行動に出るし。なぜか私には、彼女が何をたくらんでるかわかっちゃうんだから。思いながらエレーヌは苦笑いした。

 警官たちが、どうしたのか聞こうと口を開く前に、イクミは彼らに尋ねた。
「ねえ、電子部品のジャンク屋って、ないかな。」
 警官たちは、意表をつかれたようだ。
「通り二つ裏に固まってありますけど。どうしました?」

「あたし、こう見えても、電子工学では優秀な学生なのよ。街へ出ると、電子部品のありそうなとこって、つい、探してみたくなるのよね。ねっ、お願い。案内してもらえないかなあ。」
 半分冗談のようなイクミの言いように、二人の警官はサングラスの顔を見合わせていたが、特に問題なかろうと判断したようだ。先に立って歩き始めた。右手に、拳銃の姿はとっくにない。抜くのも仕舞うのも、見事な素早さだ。

 ジャンク屋が集まっている一角に着くと、イクミは目を輝かせて物色を始めた。正体のよくわからない部品を、こまごまと買い漁っている。荒っぽそうな店の親父たちも、警官を引き連れた少女があれこれ質問するのに、おとなしく受け答えしている。
「ごめんなさいね、あのとおりで。」
 エレーヌが苦笑して見せると、警官たちも笑顔を見せた。

 エレーヌは、イクミについて歩いて荷物持ちをしていたが、持ちきれなくなってきた。ゆるゆると脇をついて来る警官たちに、今度は思い切り困った顔で振り返って見せると、
「すみませんが、持つのを手伝っていただけます?」
 さすがに虫が良すぎるかなと思ったが。警官たちは、でれでれと大きな紙袋を受け取った。

 食料品まで買い込むと、四人の両手がすべてふさがった。あまり格好が良いとは言えないが、何とか宇宙港まで戻って来ると、ボートが元の場所にない。きょろきょろと探すと、エプロンの端の方にある、ハンガーの上屋の奥に、ちょこんと収まっているのが見えた。
「ハイ、フィー!」
 イクミが声をかけると、タラップの上のエアロックから、フィーが顔を出した。

「おお、お帰り。」
「ちょっと、買い過ぎたかも。お巡りさんに手伝ってもらっちゃった。船に運んでえ。」
 鼻にかかった声で、甘えたような仕草のイクミに、フィーは一瞬、気持ちが悪いと思ったが、そのわざとらしさに、ただならぬものを感じた。タラップを駆け降りると、警官たちにニカッと笑って、荷を受け取った。


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