≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

20

 モノレールでショッピングモールへ向かう。昨日のビーチとはまた違う方向だ。宇宙港から一つ目の駅前に「プーマック中央警察庁」と大きな看板を掲げた背の高いビルが見えた。昨日、ジェイナスが向かったのはここだろう。ショカヌフ列島は火山島だから、地震が多い。あんな高いビルを建てるのには、高度な技術力と経済力が必要だと思うが、さすがは「憧れのリゾート」の代名詞、アーゴはやはり豊かな国なのだろう。

 車内は結構混雑していて、警官たちは、二人が座った席から少し離れて立っている。エレーヌは、隣のイクミに小声で話しかけた。
「イクミ、何か気になることがあるのね?」
「エレーヌだって、気づいてるんでしょ。」

 エレーヌはうふふと笑って、
「大仰な護衛よね。」
 傍目には、若い女の子が他愛ない内緒話で笑いあっているように見えるはずだ、と思いながら、イクミは小声を続けた。濃紺の制服にサングラスをかけた二人の警官には、聞こえないように気を配りながら。

「エレーヌは、どういうことだと思う?」
「第1案、星間警察のお手伝いなんて、めったにないことなので、関係者らしいあたしたちに、万一のことがないよう、厳重な監視体制を取っている。」
「うーん、つまんないなあ。ちょっと違うような。」
「第2案、ジェイは実は偽者で、私たちはその片棒を担いでいると思われるので、証拠固めのために泳がされている。」

「あっは。やっぱりジェイの絡みだよね。第3案はあるの?」
「ジェイナスは本物で、私たちはその片棒を担いでいると思われるので、どこまで知っているか確かめるために泳がされている。」
「何よそれー。」
 イクミは笑った。ここだけ声が大きくなった。その時、エレーヌがはっとした表情を見せたが、イクミには意味がわからない。

「でも、2案か3案て雰囲気だよね。」
 イクミは、また声をひそめる。
「ジェイが偽者なら、なぜわざわざ警察に行くの?」
 エレーヌの声が、急にさっきまでと変わった。イクミは不審気に聞き返した。

「3案ってこと?」
「まさかアーゴの警察が、星間警察と敵対するようなことをしてるとでもいうの?」
「何よー、自分で言っといて。」

 エレーヌのウィンクに、イクミはようやく気づいた。そうか!このパス!エレーヌが小さくうなずく。エレーヌも、つい今しがた気づいたのだ。首から下げたこのパスに、盗聴マイクでも仕込んであったら、まずいことになる。
「でも確かに、そんな想像、映画の見過ぎよね。こんなに大事に護衛してもらって、ありがたいことだわ。」
 我ながら、さりげなく言えたと思う。あたしって、女優の才能もあるかも。聞かれているかも知れない、いないかも知れない相手に対して演技するというのは、どうも奇妙な感じだ。


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