≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 レイたちのボートは、大気圏内を航行できるリフティングボディを採用している。シャトルに乗り換えずに、直接地上の宙港へ着陸できる。ただしこんな場合、その機体単独で再度宇宙へ飛び出すのは難しい。大気圏を離れるだけで、通常空間エンジンの燃料を使い切ってしまうことが多いのだ。宇宙港のカタパルトか、ブースターロケットを使うのが一般的だ。

 事前に調べたところでは、惑星アーゴのショカヌフ国際宇宙港なら、カタパルト設備は整っているということなので、地表まで降りても安心だろう。なぜか軌道エレベータは未だ設置されていない。赤道近くに陸地がないことが関係しているのだろうか。いずれそれは、中継ステーションを利用しても、シャトルに乗り換える以外には、地上へ降りる方法がないということだ。

 アーゴは、表面のほとんどが海洋で覆われた、美しい星だ。北回帰線近くにある列島が、惑星の中心地だ。海流の関係で、年中熱帯性の気候を保っている。青い空、青い海、白い砂。ナツメヤシの背の高い緑、咲き乱れる花々。それと裏腹に、島を形作った火山群は万年雪を頂いて、青白い崇高さを見せている。常夏のショカヌフ列島と言えば、一度は行って見たい憧れのリゾート地の代名詞だ。

 ショカヌフ宇宙港では、滑走路をまるまるひとつ空けて、星間警察の調査官を待っていた。着陸すると、これまたVIP専用のエプロンへ誘導された。他の滑走路やエプロンは、到着便でごった返している。出発側も、カタパルトが引きもきらずにシャトルを大空へ放り上げている。それに比べ、こちらは静かで落ち着いたものだ。

「実はこの機体、大気圏突入は、今まで試験飛行と滞宙証明検査の時と、二回しかやったことがなかったんです。今日がやっと三回目。うまく行ってほっとしました。」
 レイは頭を掻きながらジェイナスに言った。
「あら、相変わらずそうは見えなかったわよ。」

 ジェイナスはウィンクしながら答える。
「それじゃ、本当にお世話になったわ。ありがとう。ここで、できるだけの優遇をしてもらえるように頼んでおくからね。それから、私がここを発つまでに、必ず「乗船賃」を支払いにくるわ。」

 タラップを降りていくジェイナスを、四人は外扉の前で見送った。下に、二十人近い警官隊と共に待ち受けているのは、キャリングス局長だ。直々にお迎えに来ている。ジェイナスが局長と握手をし、こちらを指差しながら何か話しているのは、さっきの「優遇」のことを頼んでいるのだろう。振り返って手を振ると、局長と一緒に、待機していた流線型のヘリコプタに乗り込み、飛び立った。警官隊は、四、五人を残してパトロールカーに分乗して走り去った。

 振り返した手を下ろしながら、イクミがぽつりと言った。
「あのジェットヘリ、工学部の総務で使ってるのと同型だね。」
「ああ。塗装の仕方のせいか雰囲気が違うな」
「警察風の塗装だからかしら?」
 フィーとエレーヌの答え方も、力ない。

「行っちゃったよ。」
「行っちゃったね。」
「ああ。」
 しばし、立ちつくした四人だったが、フィーが気を取り直して大声を出した。
「ちょっとしたトラブルはあったが、取りあえずアーゴに着いたんだ。休暇を楽しもうぜ!」


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