≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 しばらくは順調だった。約十時間、食事、睡眠をとりながら、次元振動エンジンの振幅が最大値になるまで待って、ハイパードライブを駆動した。これをもう一度繰り返すと、リゾート惑星アーゴを擁するプーマック恒星系の縁辺に着いた。
「ここからなら、ハイパーウェーブ通信が届くわね。」

 同時相互通話ができるハイパーウェーブ通信は、減衰が著しく、せいぜい一恒星系内程度しか届かない。それ以上遠くへは、宇宙郵便船がハイパードライブを使って数日かけて送り届けるデータパッケージに、「手紙」として託すのだ。着信に何日かかかる電子メールというわけだ。ジェイナスは通信機を借りて、プーマック中央警察庁へ連絡を取った。

「こちらは銀河星間連合刑事警察機構、調査第二局第二部第二課の調査官、ジェイナス・ツインクル。任務中にとある犯罪組織より追われています、申し訳ありませんが、保護をお願いします。」
 ボートの登録コードと現在位置の座標をつけて送信すると、返答はすぐにあった。

「ツインクル調査官、要請を受け入れます。大至急、近くにいるパトロール艇を、調査官の保護に回します。もう少しだけご辛抱ください。こちらはプーマック中央警察庁、総務局調査部。調査官の要請の窓口となります。」
「ありがとう、ミズ──?」
「シャンデ。レイチェル・シャンデです。今、局長のキャリングスに替わります。」
「ありがとう、ミズ・シャンデ。」

「キャリングスと申します、ツインクル調査官。お手伝いができて光栄です。すぐにパトロール艇を向かわせましたから、もう安全です。そのパトロール艇がご案内申し上げますので、取りあえず、惑星アーゴへいらしてください。お使いの船は、大気圏へ降りられますか?」
 ジェイナスがレイを振り返る。レイが頷くと、ジェイナスは「ええ」と返事をした。
「では、ショカヌフ国際宇宙港へご着陸ください。お待ち申し上げております。」

 通信を終えて、ジェイナスはほっと溜息をついた。イクミが、
「あっさり信用してくれたわね。」
と言うと、ジェイナスは振り返って、
「あら、いたずらでこんなことしたら、どんな目に遭うか。」

「そ、そうじゃなくて、良かった、って意味よ。」
 イクミは慌てて言い直した。ジェイナスは笑いながら、
「それより、お聞きのとおり、お迎えが来てくれるそうだから、あとは安心して送ってもらえるわね。」

「それにしても、ジェイナスさん─―─いえ、ジェイって偉い人だったんだね。あんな偉そうな人に、あんな丁寧な言い方で応対されて。」
「時と場合によってね。」
 ジェイナスは声をあげて笑った。

「そうだ、これ、お返ししておきます。」
 レイが拳銃と携帯端末を取り出して、ジェイナスに手渡した。ジェイナスは、携帯端末を開いてチェックすると、念のため「もうすぐアーゴ星に到着する」とだけ書いた本部あての「手紙」を、アーゴの郵便受付へ送った。
 やがて、三隻のパトロール艇がやって来た。もう、追っ手を気にすることはない。パトロール艇に護衛され、アーゴ星までの途は、ぐっとくつろいだ気分だった。


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