≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

12

「わかった。じゃあ外は俺がやる。レイ、指示を出してくれ。」
「ああ、頼む。エレーヌとイクミは彼女を頼む。」
 フィーは、闖入者が眠っているのに気づいて何か言いかけたが、ここで初めて新たな乗客を発見したイクミの大声がさえぎった。
「いったい何が起こったって言うの?」
 船外服姿の客は、それでも目を覚ましそうにない。

 レイやフィーが説明すると、イクミはすぐにまぜっかえすので、エレーヌが一通りの状況を話した。逆に、イクミは、コクピットへ来るよう呼ばれて、慌てて何か変なものを混ぜたらしく、ケーキの材料がいきなり膨らみ始めて、部屋中を埋め尽くさんばかりになった経緯を、ぽつぽつと話し始めた。

 本人は、屈辱的な失敗談を語っているつもりらしいが、どう聞いても爆笑ものだ。レイも笑いをこらえながら、おまえもこらえるんだぞと、フィーの腕をつねる。トイレから無理矢理ホースを引きずり出して、みんな吸い取って船外へ捨てたくだりは、イクミ自身は機転を利かせたつもりらしく、ようやく得意げになった。ひととおり話したあと、
「でも、ボウルや泡だて器も、いっしょに吸い出されちゃったんだよね。」

 もったいないことしたなあ、というイクミの表情に、フィーは、我慢できなくなって、思わず口を出した。
「うまく行ったから良かったが、船内の気圧が下がって慌てたんだぞ。そのまま空気がみんな吸い出されたらどうすんだ。」
「そんなドジ、踏まないわ。」

「じゃあケーキの材料は、ドジじゃなかったってえのか?」
「フィー、今、うまく行ったから良かったって、言ったじゃない。」
 また始まった。エレーヌとレイは、再びなだめに回った。

「あの奇妙な雲は、ケーキの材料のなれの果てだったのね。」
「宇宙空間に放り出されたものだから、水分が凝固したところを、ホイップされていた空気が急激に拡散して、もくもくと雲が広がるように見えたわけだ。」
「奴さんたち、煙幕とか、有害な星間ガスとかと疑ったんじゃねいかな。」

「おかげで、連中にスキができて、ハイパードライブに入るタイミングをつかんだじゃないか。」
「イクミのとんだ怪我の功名ってえわけだ。」
「何ですって?」
「やめやめ。今はそれどころじゃない。まずは行動開始だ。」
 さすがに二人とも、言い合いをやめて立ち上がった。


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