≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 自動操縦をセットしたとはいえ、監視役は必要なので、レイをコクピットに残して、エレーヌも居住区へ向かった。イクミってば、何をしてるのかしら。リビングユニットに入って驚いた。そこら中、何かがこびりついて、甘いふわふわした香りが漂っている。いや、充満している、と言ったほうが正しいだろう。キッチンからフィーとイクミの言い争う声が聞こえる。

「だって、いきなり部屋中にぶわーって、膨らみ出したのよ。ぶわーって。しょうがないから、非常用の吸引廃棄装置で吸い取って捨てたの。」
「何だその、非常用吸引廃棄装置って?」
「トイレからホースを引っ張ったのよ!」

「!☆■◎★∀?!」
「だいたい、急にコクピットへ来いと言ってみたり、ここでシートに縛られてろと言ってみたり、返事も聞かずにぶんぶん宙返りしてみたり、ずいぶんなことしてくれたわよね!」
「だから、緊急事態だと言ったろ。ほんとに命がけで逃げたんだぜ。」
「あんな乱暴な操船じゃ、デリケートなあたしは、ベルトしてたって死んじゃうよ。」
「乱暴とはなんだ、それこそ危うく本当に死んじまうところだったのを、俺の腕で切り抜けたんだぞ。」

 このまま放っておくと、いつまでも口論し続けるだろう。呆れて見ていたエレーヌだが、思い直して、二人の間に割って入った。
「イクミ、無事だったのね。」
「エレーヌ、ひどい「運転」だったよね。当然、フィーの操船なんでしょ?えらい目にあったわ。」

 エレーヌは思わず吹き出しながら、
「イクミ、本当に大変だったのよ。でも、あなたが何ともなくて良かったわ。」
 そう言った途端、後方の壁が下、という感覚がぐらりと揺らいで、本来の床がその存在を主張し始めた。思わず三人とも、足元がふらつく。数分のハイパードライブから、通常空間へ戻ったようだ。慣性飛行に移って、弱いながらも床向きの人工重力が効き出したとみえる。

 二人をなだめながら連れて、エレーヌはコクピットへ戻った。レイは、被害個所をメインディスプレイに表示しながら、対処を検討中だった。
「フィー、外装板をだいぶやられた。幸い内殻は大丈夫だが、外殻の支持構造に、歪みが出てる。このままじゃ、大気圏に降りられない。船外作業が必要だ。」

「そうか。追っかけストーカーはどうだ?」
「今のところ、音沙汰はない。こっちが前回のハイパードライブからどのくらい時間が立っていたかわからなきゃ、エンジンの次元振動の振幅を推定できないし、どのくらい跳んだか、そう簡単にわかるはずないさ。」


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