≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

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 コンソール中のインジケータが一斉に真っ赤になったが、ちらほらと緑に戻るものがある。もうだめかと思ったものの、意外と何ともない。レイがあちこちチェックをしようとする前に、フィーが気づいた。
「うーん、危なかった。どうやら、お荷物を処分してくれたらしい。操縦桿が軽くなったぜ。」
 確かに、あの、いかにも余計な横Gが、感じられなくなっている。

「そうか、ねえさんの乗ってきたシャトルに当たったんだ。」
「だけど、次は本当にやべえ。早くマトリクスをよこせ。」
 フライバイケーブルシステムのために、実際にはほとんど動かない操縦桿を握り締めながら、フィーがわめく。

「ちょっと待てってば。」
 これでも必死なんだぜ、と思うレイの目の隅に、何かが動いた。メインディスプレイに何か、雲のようなものが急速に広がっている。このボートから噴き出したように見える。同時に船内気圧低下の警報が鳴り出した。居住区だ。

「居住区に損傷を食らったかも知れない!」
「イクミ!イクミ!返事をして!」
 やはり返事はない。デイスプレイ上の追っ手の6機は、正体不明の雲に突っ込んでしまって、相当に戸惑ったような回避運動を始めた。

「何だ、あのもくもくしたのは?」
「わからないが、できたぜ、マトリクス。今メインコンピュータへ送った。」
「何だか知らねいが、連中、まごついてる。今のうちにトンズラこくぜ。」
 フィーは、ハイパードライブを駆動させた。

 独特の振動音が響き、メインスクリーンの表示が流れた。慣性中和システムが無効になって、ふわりと浮揚感を感じるや、軽い加速感が加わった。本来なら、ハイパードライブ中に立ち歩くのはご法度だが、フィーは、シートベルトを引きちぎるようにはずすと、居住区へ向かった。加速感のために、後ろの隔壁が下のように感じるので、ゆっくり飛び降りるような格好になる。

「さて、ねえさん、事情くらい聞かせてもらえるんだろうな。」
 レイが振り返って訊くと、これも丁度ベルトをはずしたところのエレーヌが、困ったような笑顔で答えた。
「眠ってるわ。」

「何?」
 レイは驚いて伸び上がった。エレーヌの隣席に着いた金髪の闖入者は、シートにぐったりと身を任せて、寝息をたてていた。
「やれやれ。安心して気を失った、と思いたいけど、どう見ても、単に寝てるようにしか見えないな。」


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