≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

09

 コクピットへ入ると、そこも相変わらずオレンジ色一色だ。コパイロット席に着いていたエレーヌが振り向き、見知らぬ客人を見て目を丸くする。が、声は落ち着いている。
「フィー、早く代わって。警告なしでいきなり発砲してきたのよ。もうシールドが持たないわ。あなたたちがシートに着いていないから、これ以上船を振り回せないし。」
 慣性中和システムの効果範囲内で、だいぶ回避運動をしていたらしい。シールドも、軍事用戦闘用ではないのだ。

「わかった。ねえさんも、空いた席に着いて体を固定してくれ。」
 まだ仏頂面のフィーは、そう言いながら、それでも素早くメインパイロット席に着いた。隣のエレーヌから操縦を引き継ぐと、ちらりと後ろを見て、レイと闖入者がシートベルトを締めたのを確かめた。メインディスプレイは、ドッキングしてしまったシャトルを無視するよう切り替えてあり、砲撃を繰り返す五機の光点が、さらに近づいて来たことを示している。

「行くぞ。」
 フィーが声を上げると、ボートのいくつかのバーニアが轟然とガスを吹いた。追手の放ったレーザー砲の軌跡は、見当違いの方向へ拡散して行った。

「イクミはどうしたんだ?」
 鮮やかな回避運動をさせながら、フィーが訊いた。
「インターカムで呼んでるんだけど、一度、大丈夫って言ったきり、答えがないのよ。」
 慣性中和システムを振り切るフィーの操船で、シートから放り出されそうになるのをこらえながら、エレーヌが答えた。
「困ったやっちゃな。」

 フィーはインターカムに向かって怒鳴った。
「イクミ!聞こえてるか?緊急事態だ。わかってんだろうが、そこいらのシートに着いて、ベルトを締めてろ!でないと乾燥機の中の洗濯物になっちまうぞ!――ところで、ドルフムトワ星系へ戻るか?」
 今度は、手元のコンソールディスプレイでナヴィゲータソフトを操作しているレイに訊く。

「いや、距離はあっても、航路計算が終わってるアーゴへ真っ直ぐ行った方が手っとり早い。」
「いずれ通常空間エンジンでこんなことしてたら、燃料がいくらあっても足りねい。」
「でも、ハイパードライブ用の次元振動エンジンの振幅が、まだ最大値の半分しか回復してない。もし最大振幅を取れてたとしても、一発ではアーゴまで届かないんだぞ。」
「いいから、まず一発、奴らの目の前から消えようぜ。」

「わかった。」
 フィーの言い分はもっともだ。
「すぐデータマトリクスを組み直す。ちょっとだけ辛抱してくれ。」
「頼む。さすがの俺も、いつまでも逃げ切れるもんじゃねい。」
 自分で「さすがに」と言うか?まあ、そこがフィーか。レイがそう思った途端に、直撃を食った。ものすごい衝撃と大音響。オレンジ色の船内照明が、一瞬消えて、また点いた。


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