≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

08

 通路も非常用照明のオレンジ色に満たされていた。普段は使わない右舷のエアロックが加圧動作中だ。まず、手動で電子錠をおろす。これで向こうから勝手に入っては来られない。カメラを操作すると、中に白い船外服姿が一人見えた。そろそろ気圧が上がってきた頃合いなので、マイクで呼びかけた。

「えー、聞こえるか。こちらは宇宙大学工学部所属の実験用ボートだ。無断で侵入したそちらは誰か。名乗りたまえ。」
 精一杯ドスを効かせた声を出す。

「追われているのよ、助けて!」
 若い女性の声だ。レイとフィーは顔を見合せた。
「早くここを開けて!すぐ追手が戻ってくるわ!撃たれるわよっ!」
 言っているそばから衝撃が来た。砲撃を受けているのか?信じられない。慣性中和システムの能力を越えた分が、レイとフィーを通路の壁に打ちつけた。

 不意にエアロックの扉が開いた。
「まさか?!こんな短い時間で、電子錠システムをハッキングしたのか?」
 驚くレイたちの鼻先に、拳銃が突きつけられた。闖入者は既にヘルメットをはずしている。やはり若い女性だ。それも、かなりの美人の範疇に入る。鮮やかな長い金髪と淡い水色の瞳が印象的だ。顎に血が滲んでいる。白い船外服がだぶだぶで、体に合っていないのは何故だろう。

 右手に拳銃、左手には見たことのない型の携帯端末を持っている。こちらからは良く見えないが、細いケーブルが電子錠システムのパネルに繋がっているらしいから、それでシステムをだましたのだろう。と、観察したのも一瞬のことだ。

「さあ、制御室へ案内して。」
「何が『助けて』だ。やっぱり強盗のたぐいじゃねいか!」
 フィーがわめくと、もう一度船体が激しく揺れた。
「それどころじゃないでしょ。一緒に星間物質になりたくなかったら、さっさと制御室へ案内して頂戴。」
「銃で脅されたら、誰でも言うことを聞くと思ってんのか?」

「いや、銃で脅されたら、勝ち目はないさ。」
 強がるフィーをさえぎって、レイは両手を目の高さに挙げ、コクピットの方へ顎をしゃくった。
「確かに、それどころじゃないようだ。あなたもこのボートの中にいる以上、一蓮托生、いや一船託生ってわけだ。で、コクピットで何をしようって言うんだい?」

「操縦桿を貸していただいて、とにかくやつらから逃げるのよ。」
「だったら、その物騒なモノをしまって、僕らの言うことを聞くんだな。この船は特注品だ。そっちの彼がパイロットになる前提で、僕が組み立てた。ちょっと借りただけで、そう簡単に言うことを聞いてくれるボートじゃないぜ。」


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