≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

06

 シャトルのセンサーが、プーマック星系を目指して先行する小型ボートを捕らえた。こちらの方が速度が大きい。すぐ追い抜くだろう。しかしジェイナスは、すかさずヴァーニアを噴かして機体をボートに近づく軌道に乗せ、メインエンジンを最大噴射させて加速した。疲れきった体がシートに食い込んで、ひきちぎられそうだ。慣性中和システムなんぞ、ないも同然だ。全身の血が後ろへ逆流して行って、気が遠くなりかける。壊れたマイクがまた顎に食い込んだ。痛みが意識を引き戻す。

 追手は、こちらがこの期に及んで悪あがきするとは思っていなかったらしい。五機をいったんは引き離したように見えた。
 あのボートは当然民間機だろう。巻き込むのは申し訳ないが、こちらはもう機体がもたない。ボートとの距離がみるみる小さくなる。ここからが腕のみせどころだ。

「今だ!」
 再度バーニアを噴かして、機体をぐるりと前後反転させると、メインエンジンで思いっきり逆噴射をかけた。ジェイナスほどの訓練を受けていても、この減速方法は効く。体中が引きちぎられそうだ。コンソールのそっちこっちのディスプレイが、次々にダウンしていく。追っ手はこちらの急減速に追随しきれず、あっという間に追い越して行って、大きく旋回運動に入った。

 もう一度エンジンを噴かしながら、着陸脚を降ろす。ヴァーニアを併用して、相対速度と進行方向とをボートに揃え、すうっと近付いて行く。
 見たことのない型のボートだ。滑らかな艇体を滑走路に見立てて、後ろ向きのまま強引に「着陸」した。脚が相手の外装板を引き剥がし、それに引っ掛かって止まる。多分、目星を付けていた相手のエアロックの近くに、うまく止まったと思う。もう、顎が痛いのなんのと言ってる暇はない。

 左手はシートベルトをはずし、同時に右手はレバーを引いて、出入口のハッチを開いた。拳銃と多機能携帯端末は、既に腰のフックに下げてある。座席から身を引き剥がすと、二度と使われることのないだろうコンソールを蹴りとばして、ハッチへ泳ぐ。ハッチの外に、ボートのエアロックの表示が見える。大当たりだ!手すりに取り付き、緊急開閉ノブをひねると、艇の横腹がぱくりと口を開いた。


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