≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

05

 チェックも済んで、いよいよ出発だ。
 この手の小型ボートは、係留施設側が無人でも発着できるのがいい。ボートと施設側の両方のエアロックが完全に閉じたのが確認されると、伸縮式の連絡通路が船体から離れる。次に、ボートをバースに固定していたアームが、船体を軽く宇宙へ押し出した。ボートは、ヴァーニアを小刻みに噴かして向きを変える。その間に、周囲の航路に他の船がいないか確認して、向きが定まったところで、赤道上空に浮かぶ宇宙港ステーションへ前進を始めた。

 ステーションの端に、小型ボート用重力カタパルトが設けられている。使用申請を出すと、すぐ許可された。そのまま、三つの大きなリングで構成された宇宙カタパルトへ向かって加速する。人工重力システムを応用したこのカタパルトによって、かなりの燃料を節約できる。三つのリングを通り抜けると、ボートは大きく加速されていた。目指すはこの宙域有数のリゾート惑星アーゴだ。

 ハイパードライブを数回跳んだあと、とりあえず慣性飛行に入って、一息つく。レイとフィーは、計器類を一通りチェックし、自動航行に切り換えて居住区へ降りた。窓に見立てたスクリーンがあるが、まばらな星空がじっと映っているだけで、まるで止まっているように感じる。先に降りていたはずのイクミとエレーヌが、リビングユニットに見当たらないと思ったら、隣にくっついたキッチンで騒いでいた。フィーがようすを見に行く。

「いったいどうしたってえんだ?」
「イクミってば、見て。新発売のスウェル・ケーキを焼くんだって言って、材料をこんなに。」
「いいじゃねいか。おいしくできさえすりゃ、ね。」
「失礼ね。食べさしてあげない。」

 イクミのあかんべえにかまわず、
「だって、みんな粉末タイプの材料なのよ。この娘と来たら、専門の電子工学に関しては本物の天才だっていうのに、こういう常識的なことで、突然抜けてるとこがあるんだから。」
 エレーヌも、半分は笑っている。この規模のボートでは、慣性中和システムに毛が生えたような、簡易な人工重力システムまでが精一杯で、客船などに使われている本格的な人工重力システムを装備するのは無理があるし、システムへの負荷を軽減するために、無重量状態のまま航行する時間も結構多い。

 もし無重量状態の間に、粉末が空中に飛び散ったら、危険だし後始末はちゃめちゃに大変だ。こんな小型ボートでの宇宙ツーリングには、あらかじめペースト状に加工した材料を用意するものだ。 フィーが、
「じゃあ今のうちにペーストにする。」
と言い張るイクミを残してリビングユニットへ戻り、コーヒーを飲んでいたレイに話して聞かせると、レイも笑い出した。

「やれやれ、イクミらしいや。」
 コーヒーといっても、これも無重量状態を考慮して、ぬるいパック入りをストローで飲む。熱い飲み物をふうふういいながら啜るのは、目的地までお預けだ。

 いきなり電子音が響いた。未確認物体接近警報だ。フィーとレイが飛び上がってコクピットへ急ぐ。


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