≪レディ・ツインクル!≫  ■back 
   □何行か毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

02

 ドルフムトワ恒星系は、星系全体が宇宙大学を構成している。一般講義棟と普通居住地がある第四惑星マーフォデインの赤道直下、ノウツマック大陸は、ちょうど春まっさかりだ。工学部は中間試験が終わったところで、明日から3日間の試験休みに入る。学部内で最も広い共用3号館のピロティーも、学生達でごったがえしている。

 レイ・ルフトウィックは、約束の掲示スクリーン前へ向かって、その間を縫って行った。先に来て待っていたフィークラック・フィンと、短い挨拶を交わしながら、二人で小走りに前庭へ出る。駐輪サークルから自転車を引き抜いて、軌道エレベータ施設へ向かった。フィーはバックパックを背負っているが、レイはバインダファイルを右手に持って、片手運転 だ。

 施設まで、一面の菜の花畑を突っ切って行く。あたたかな春風が気持ちいい。マーフォデインは全体に寒い惑星で、両極地方は極寒常冬の地だが、赤道から南北回帰線付近までは、四季が存在する。これからが良い季節だ。黄色い花の海の向こうに、衛星軌道まで延びた軌道エレベータが、銀色の線となって高い青空を分割している。左手の空に、真昼の太陽──ドルフムトワ星が輝いている。

「イクミに気付かれないうちに上がれっかな。」
 風に乱れる自慢の銀髪を、かきあげながらフィーが聞くと、レイは笑って、
「あいつはスキップの手続きで、教務課から呼び出しがかかってた。もう小一時間は大学本部で暇つぶしさせられるさ。」
「天才少女の悲劇ってえわけだ。」

 レイの研究室は、静止軌道上にある。本来助教授クラスの教官に与えられるものを、改造して小型ボートのバースを備えつけた立派なものだ。レイ自身、スキップを続けて、今は総合宇宙船工学科の大学院に籍を置いてはいるが、それ以上の存在であることは、この大学側の処遇でもわかるとおりだ。

 軌道エレベータで分岐ステーションへ上がり、連絡カプセルに乗って、二人は研究室へ向かった。十分程の宇宙ドライブだ。十人乗りのカプセルに二人だけなので、妙に広く感じる。その途中でもレイは残念そうに言う。

「エレーヌになら、手伝って欲しかったんだけどなあ。」
「しゃあねいさ。エレーヌとイクミはいつもワンセットだからな───おい、何で研究室に明かりが見えるんだ?」
「───電子錠に登録されてるのは、僕たち以外には、ウェラスホフ教授にクーセン助教授、あとは───エレーヌとイクミだ。」

「助教授かな?」
 言いながら、溜め息の出るフィー。
「そんなはずないってわかってることを、いちいち言うなよ。」
 レイも苦々しい顔。


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