≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

48 出番

出番直前。
多佳子たちは、幕が降りたステージにスタンバイした。
ストラップでギターを吊った格好では、スリーフィンガーが上手く弾けない多佳子は、高めのスツールに腰掛ける。
あとのメンバーは立ったままだ。

仁保子は考えた末、〈ほろほろ…〉で、キイボードではなく本物のビブラフォンを使うことにした。
舞台の下手側に立った彼女の前にはビブラフォン、客席から見て右にピアノと、L字型に楽器を配置している。
ピアノの湾曲した胴の前に柚姫、舞台の真ん中に多佳子。
その上手側に季依、一番上手側が文乃だ。

チューニングの基音は、調整が利かないビブラフォンにする。
心持ち低めなので、落ち着いた演奏に聴こえるだろうか。
この合同ライブ、〈音楽系部活動発表会〉という名目の〈芸術鑑賞の時間〉としてカリキュラムに組み入れられているらしい。
つまり、授業時間の範疇なのだ。

だから、演奏者の衣装もセーラー服のまま。
器楽部本隊や音楽部の発表のことを考えれば、それが普通なんだろうけど。
〈芸術鑑賞〉を行うことで、学校がどこぞから補助金がもらえるのだとか、高校の履修課程に決められてるからしかたなくやってるとか、いろいろ噂があるけど、本当のところはわからない。

授業時間をつぶして部活の発表ができるなんて、願ってもないことだよね。
などと、多佳子は演奏自体と関係ないことを思い浮かべていた。
いけない、いけない。
一応、譜面台に歌詞を広げているけど、できれば聴衆の方に視線を向けながら歌いたい。
歌詞をド忘れしないように、集中しなくちゃ。

「これから、器楽部、音楽部による発表を始めます」
アナウンスのあと、幕がゆっくり上がりだした。
「最初は、第二器楽班一年生の〈ミニム〉です」
と聞こえ終わる同時に、幕が開ききった。
拍手が聞こえるけれど、スポットライトがまぶしくて、客席が良く見えない。
それが良かったのか、柚姫がほぐしてくれた不安は、うまく落ち着いている。

正式なアナウンスでも〈第二器楽班〉て言うんだ、なんて考える程度には。
「ご紹介いただきました器楽部第二器楽班一年生ユニット〈ミニム〉です。
 一曲めは〈ほろほろ花の散る中で〉。聴いてください」
余計なことは言わずに、演奏を始めた。

季依のギターと仁保子のビブラフォンが絡まるイントロ。
多佳子のリードボーカルは、出だしが少し震えてしまったけど、ハモりパートの季依と目が合うと、調子を取り戻した。
間奏からツーコーラスめまでは、ビブラフォンに変わってキイボードがオブリガートを奏でる。

リフで再びビブラフォンが登場して、エンディングを迎えた。
曲が終わると、思いがけないほど大きな拍手をもらった。
講堂の残響のせいで、大げさに聞こえるのかもしれない。
深く頭を下げた後、多佳子は改めてマイクに向かった。


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