≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

47 合同ライブ

あっという間に、合同ライブ当日が来てしまった。
午前中は普通授業、午後からのステージだ。
器楽部第二班が最初で、そのあと器楽部本隊、音楽部が最後という順番。
さらに、多佳子たち一年生は、第二班の前座役、つまりライブ全体のトップバッターだ。
多佳子は、朝から授業どころではなかった。

休み時間のたびにトイレに通っている。
お弁当はどこに食べたかわからない。
校庭に今が盛りと咲くクレマチス(悠紀さんたちじゃなくて、ホンモノ)の花に、笑われている気がする。
楽器や器材は昨日のうちに運んであるので、昼食後は身一つで、舞台裏の控え室に集合した。
開演時刻が近づくにつれ、多佳子の心臓は、周りに聞こえるんじゃないだろうかと思うほど、ばくばく鳴っている。
緊張で気が遠くなりそうだ。

突然、多佳子の目の前に柚姫が現われた。
胸の早鐘を鎮めようと目をつぶっていて、近づいて来たのに気づかなかった。
びっくりした。
「多佳子さん、緊張してる?」
「わ、ヒ、ヒメ?ああ、うん、緊張してるみたい」
「わたしも」

うふ、と笑って、ふわりと多佳子に抱きついた。
甘い良い香りがする。
「ヒ、ヒメ?」
「わたしを仲間にしてくれて、本当にありがとう」
「な、何よ、やぶから棒に」
「多佳子さんのボーカルはとっても素敵です。大丈夫ですよ」

ぎゅ、と力をこめてから離れると、今度は仁保子に駆け寄って抱きしめた。
「仲間に入れてくれてありがとう。仁保子さんのアレンジ、とっても素敵です」
あっけに取られている季依にも抱きつき、同じように礼を言うと、文乃に目を向ける。
「ボクは、わかってるから、良いから。な、良いから、な」
文乃は、じりじりと後ずさっていく。
「文乃さん、大好きです」

柚姫は、逃さず文乃の首にかじりついた。
「みんな文乃さんのおかげです」
「うわーー、わかった、わかった。わかったから、そんな恥ずかしいこと、よしてくれ」
文乃は、顔を真っ赤にして柚姫の手を振りほどこうとする。
その姿を見て、多佳子はつい吹き出してしまった。

つられて、季依と仁保子も一緒に笑い出す。
柚姫も笑顔で、ついには文乃も苦笑いになった。
何だか一気に緊張がほぐれたようだ。
「はい、一番手〈ミニム〉、騒いでないで、準備お願いします」
フロアディレクター役の上級生から声がかかって、舞台へ向かった。


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