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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

44 リーダー

「多佳子がリーダーです」
予期せぬ文乃の言葉に、多佳子は飛び上がった。
「ええーーっっ!」
「てっきり多佳子さんなんだと思っていましたけど、決まっていたのではなかったのですか?」
柚姫は首をかしげた。
「へ?」

「自分で気づかなかったの?
 今まで、いつもあたしたちメンバーみんなの話を聞いて、方向性を考えてくれたのは多佳子だよ」
と、仁保子。
多佳子は首をぶんぶん横に振った。
「ユニットの色んな問題を解決してきたのも、ほとんど多佳子」
これは季依。

多佳子は、さらに強く首を振った。
そんな風に見られていたなんて。
「みんな、ずっと今の楽器を弾いてきたんじゃない。季依のギターも、文乃のベースも。
 仁保子のピアノも、ヒメのバイオリンも。何年も続けてきた経験者ばかりだわ。
 あたしだけが初心者で、みんなの足を引っ張ってる…」

「なーーに言ってんのよ。楽器の経験の長さでリーダーが決まるわけないじゃん」
多佳子の戸惑いを、季依があっさり切り捨てる。
「みんな、当然多佳子がリーダーだと思ってたよ。本当に気がつかなかった?」
文乃がダメ押しする。
「とろいー」

「季依、そんなとろいあたしがリーダーって、柄じゃないでしょう」
多佳子は、自分の眉が八の字になっているのを感じながら抵抗してみせた。
「良いから。メンバー全員認めてるんだから」
「はい良くわかりました。リーダーは多佳ちゃんね」
沼山部長がぱんぱんと手を叩いた。

「多佳ちゃん、まだ半年以上あるんだから、ゆっくり覚悟を決めてね。
 大丈夫、リーダーはひとりでやるんじゃないよ。ユニットの仲間がいてこそのリーダーなんだから。
 他のみんなも、そのことを忘れないで」
多佳子以外、みんな、大きくうなずいた。
また、なし崩し的に物事が決まってしまった、と、あきらめに似た情けなさを覚えながら、それほど信頼を寄せてもらっていたことは、実のところとても嬉しい。

このメンバーが支えてくれるなら、リーダーも、部長も、できるかもしれない。
多佳子は、やれるだけやってみようかという気になっていた。
「合同ライブが終われば、すぐ夏休みだけど、休み明けは今度は学園祭があるからね。
 レパートリー、増やしておきなさいよ」
言い置いて、沼山さんは行ってしまった。


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