≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

43 音色

「あたしらしいって、何よう」
季依は口を尖らせながらも、オカリナを取り出して、口に当てた。
素朴な澄んだ音色が響く。
「わあ、吹きやすい。オカリナなんかに、こんなに差があるなんて思わなかった」
「オカリナなんか、って失礼じゃない?吹いてたのは小学校の頃なんでしょ?季依が成長したからじゃないの?」
多佳子がとがめると、季依は楽器の歌口につけたまま、舌を出した。

次いで、〈雨の降る日は…〉のオブリガートを吹いてみる。
少しつかえながらだけど、飾り気のない音は、確かにこの曲に似合っているかもしれない。
「素敵な音色です」
柚姫はうっとりと目をつむっている。
「行けそう?」
仁保子は心配そうだ。

「少し特訓しなきゃ。でも、今からギターでバイオリン奏法を練習するよりは確実だと思うよ」
季依は、にかっと笑って仁保子に答えた。
とりあえず、もう一度〈雨の降る日…〉を、今度は季依がオカリナで入って演奏してみた。
「ああー、やっぱりおいそれとはいかない」
しばしば音を外してしまった季依は、天井を向いて嘆いた。
けれども、オカリナの気取らない音色がこの曲にぴったり来ることは、みな認めるところだ。

「さすが季依、ギターにこだわらずに音を追求する、アーティストだねえ」
仁保子の半分揶揄するような口調に、季依も、つんとあごを上げて笑った。
「お褒めにあずかりまして恐悦至極。
 でも、ごめん。〈雨〉は、あたしに、もう少し練習する時間を頂戴。二、三日で仕上げるから」
「わ、二、三日なんて、自信ありげ」

「合同ライブまであと一ヶ月ないんだもの。何とかしなくちゃいけないでしょ」
「たーのもしーい」
ひと通り今日の練習を終え、片付け始めたところへ、沼山部長がやって来た。
「合同ライブのリーフレットの紹介文、読ませてもらったけど、リーダーが誰なのか書いてないよ。
 あなたたち、リーダーは?」

「え?あ、書かなくてすみません。えーとトマちゃ…苫米地さんです」
沼山部長の問いに、多佳子が答えたけど、季依は目を丸くした。
「へ?そんなこと、いつ決めた?」
「だって、言いだしっぺというか、中学の吹奏楽部でも部長だったし」
「それ、関係ないと思う」

「うちの第二班は、新学期になったら、すぐ二年生が部長を務めるの」
沼山部長の説明では、彼女のように、二年生ユニットのリーダーが自動的に部長になるのだという。
ユニットが複数あれば、話し合って決めることになるけど、今のところ一年生は多佳子たち一ユニットだ。
「〈ミニム〉のリーダー、イコール、来年度の部長だから、覚悟しておいてね。
 で、誰がリーダーですって?」


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