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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

41 ハモりパート

「だから、ここ、ヒメが歌ってみない?」
季依の提案に、みな少し驚いた。
「えーと、ワンコーラス目は季依が歌でヒメがオブリガート、ツーコーラス目は交替して、ヒメが歌って季依がオブリガートを弾くってことね」
仁保子が確かめると、ヒメは目を輝かせて乗ってきた。

「わたし、歌います!」
「良し良し、その調子その調子」
「待って。最後のリフは?そのままヒメがハモり?また季依に交替するの?」
多佳子は、思いついて季依に向かって訊いた。
ツーコーラス目が終わったあと、すぐにサビを繰り返す部分のことだ。

歌詞は違うけど、便宜上リフレインと呼んでいる。
「ツーコーラス目の歌詞の最後の音に、バイオリンのリフへの導入部が重なってるのよ。
 交替するのは面白いと思うけど、歌いながらバイオリン構えるのはキビシいんじゃない?」
多佳子の指摘には、柚姫が応えた。
「わたし、大丈夫です。重なるのは少しだけですから、できます」

柚姫の勢いに押されて、リフは、季依がハモり、柚姫がオブリガートに戻ってみることになった。
演奏を始めると、新たにバイオリンが加わったイントロは、せつなさを増した気がする。
ワンコーラス目は、多佳子のリードボーカルに季依のハモり、柚姫のバイオリンがオブリガート。
イントロとほぼ同じ構成の間奏に、季依のギターの旋律が乗り、そのままツーコーラス目のオブリガートにつながる。
柚姫はバイオリンを左手に下げた格好で、多佳子と目を合わせながらハモりパートを歌う。
話し声とは少し違う、艶のあるソプラノだ。

ツーコーラスの終わりに近づくと、歌いながら器用に楽器をあごに挟んだ。
季依がするりとサイドボーカルに入れ替わり、柚姫が再びオブリガートを奏でる。
多佳子は、心の中でお見事!と賞賛しながら、エンディングへ向かう。
全員の音がそろって、最後の和音を鳴らした。

教室にいる聴衆が大きな拍手をくれる。
「初めて合わせたとは思えないデキじゃない?」
季依が嬉しそうに胸をそらすと、仁保子も、
「ヒメ、良い声だね。三人ボーカルもありじゃない?」

「皆さんさえ良ければ、何でもやりますよ」
柚姫が調子を合わせた。
いつも厳しい文乃も笑顔だ。
「で、自画自賛はここまでとして。
 あたし、自分で弾いていて、オブリガートのギターが浮いてるような気がするんだ」
季依が自分のパートを分析し出した。

「ピアノのフレーズはリズミカルだから、アタックがあっても良いけど、オブリガートのパートはもっとスムーズな方が良いんじゃないかな。バイオリンが奏でるオブリガートはとっても雰囲気良いよね」
「ギターはバイオリンとは違うんだし、違うのが良いんじゃないの?」
多佳子が擁護すると、文乃が、
「季依のイメージするところはわかるよ。エレキギターなんだから、それこそバイオリン奏法は?」


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