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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

37 メンバー五人

「もう良いよー。でも、できればレミ子じゃなくて、仁保子って呼んでね。
 八重樫さんのことは、文乃みたいに〈ヒメ〉って呼んで良い?」
「あ、何とでも呼んでください」
柚姫は嬉しそうに微笑んだ。

「っと、文乃さんに、レミ子さんじゃなくて仁保子さん、苫米地季依さん、吉田多佳子さんですね。
 どうかよろしくお願いします」
改めて深々とお辞儀する。
「わ、あたしたちの名前まで、よく知ってるのね」
季依が口に手をあてた。

「季依、で良いよ。多佳ちゃんみたいに、トマちゃん、でも良いし」
「あたしも多佳子で良いよ。よろしくね」
「あたし、もうバイオリンのフレーズのイメージが湧いてるの。
 明日までに大体の形を作ってくるから、任せてくれないかな」
いつもに増して意欲的な仁保子に、アレンジを委ねることにした。

昨日に続いて、練習を聴いた柚姫は、今日は楽譜を見ながらだったこともあって、二曲ともあらかた覚えてしまったようだ。
「そういえば、合同ライブのリーフレットに載せる紹介文、今週末が締め切りだったね。
 ちょうど良いタイミングだった。ちゃんとメンバー五人て書けるね」
機材の後片付けをしながら、多佳子が思い出して言った。
「それ、多佳ちゃん、頼むね」
季依が切り返す。

「え?あたし?」
「いつもその場にぴったりの言葉を探し出す多佳ちゃんだもの。適任だよ」
「ええーー?」
文乃と仁保子がうんうんとうなずいた。

「多佳子しかいない」
「多佳子さま、お願いします」
仁保子は、胸の前で手を合わせる。
柚姫は、事情がわからないなりに、にこにこと多佳子を見ていた。

結局、お昼に残したお弁当を片付ける暇はなかった。
家に持って帰った頃には、さすがに傷んでいるようで、多佳子は、もったいないもったいないとつぶやきながら、中身を生ごみペールにあけた。
いきさつを話してハハに詫びると、
「お友達が増えるのはめでたいことだけど、食べるものは食べなくちゃ」
と、アタリマエのことを言われて、少々腹立たしい。
しかし、せっかく作ってもらったものを無駄にした負い目があるので、おとなしくうなずいておいた。


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