≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

34 告白

「前に〈レベルの違う人達〉の話をしたでしょ。あれ、音楽部の伴奏者になろうという人達のことだったけど、あたしにとって本当に一番〈レベルの違う人〉っていうのは、八重樫さんだったの」
「え?」
「向こうは覚えてないと思うけど、彼女、ピアノも習ってて、小学校の三、四年生のころ、同じお教室だったの」
「ええっ?世の中、狭いねー」
多佳子は目をみはった。

「で、家にはピアノが三台だか四台だかあるって、無邪気に話してた。
 金持ちーーと思ったけど、演奏聴いて二度びっくり。とんでもない上手なの。
 小学生なのに、まるでプロのピアニストが弾いてるみたいだった」
「はああーー」

「記憶力が物凄いのと、こう、自分の体を思ったように動かせるというか、何て言えばいいのかな。
 普通、頭でわかっただけでは、その通り体が動くもんじゃないでしょう?
 でも彼女はそれができるみたいなの」
「勘が良い?」
「そんな感じかな?」

「へええ」
文乃が後を受けて、
「バイオリンもそうだったよ。ずいぶん難しい曲を、大して苦労もせずに弾きこなすんだ。
 教師が、プロを目指さしたらどうかって親御さんに勧めてた。ご両親も本人も、その気はないって、全然取り合わなかったみたいだけど」
「へー、ほんとに天才児なのね。もしかして勉学もその調子?」
と訊いたのは季依。

「ああ、小学校だからテストの順位発表なんてなかったけど、誰が見ても彼女の成績はずば抜けてるのがわかったよ」
「あのまま育ったんなら、中間試験の結果が三教科とも満点って、あながち冗談じゃないんだと思うよ」
と仁保子。
「うん、多分ホントだと思う。そんな天才児を、引きずり込むの?」
心配そうな文乃に、
「どんな天才だって、文乃にばかりまとわり付いてるっていうんじゃ、いびつだよ」

「おおっ、多佳子、ずばり言うねえ」
返した季依に、多佳子は言った。 「だって、あんなに嬉しそうに文乃に付いて歩いてる八重樫さんが、何だかいじらしくて。
 あたしたちに、できることがあれば良いなって。
 いや、だからってわけじゃなくて、〈ミニム〉にバイオリンの音が加わったら、素敵だと思わない?」
「あたしね、彼女の演奏、好きだったんだ。もう、ねたむとかうらやむとかいうレベルじゃなかった。
 あたし、バイオリン入れたアレンジ、考えてみて良い?」

仁保子の申し出は、つまり柚姫を迎え入れようという宣言だ。
「あはは、本人にその気があるかどうか聞くのが先よ。仁保子、気が早ーい」
季依が突っ込んで、みんな笑い顔になった。
文乃も一緒に笑っている。
ここに、本当に八重樫さんの笑顔も加わったら良いな。


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