≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

33 提案

外は、この時期にしては良く晴れて、心地良さそうだ。
四校時が終わると、多佳子はお弁当箱を持って、文乃の許へ飛んで行った。
「ねえ、天気が良いから、みんなで外で食べない?」
唖然としながらうなずく文乃に、彼女のお弁当箱を持たせ、隣の茜組へ向かう。
茜組の仁保子、葵組の季依も強引に引き連れて、昇降口から外へ出た。

運動場の際には栃の木の並木が連なって、おあつらえ向きの木陰ができている。
木漏れ日がちらつく芝生に座り込んで、皆でお昼を広げた。
昼の音楽準備室は、上級生がランチ集会に使っているので、四人だけで込み入った話をするには向かない。
雨でなくて良かった。
植え込みのツツジも、紅白の花をつけて気持ち良さげだ。

「お食事中すみませんが」
多佳子は、海苔を巻いたおむすびを頬ばりながら、断りを入れた。
「文乃、さっき季依からあなたと八重樫さんのことを聞いたの」
文乃はお箸をくわえて、ぴくりと震えた。
仁保子も驚いた様子で手を止める。

「小学校のときあなたたちと一緒だった人達の話だってことだけど、もし間違っていたらいやだから、あなたに確かめておきたいの。
 季依、さっきの話を文乃と仁保子にも聞かせて」
季依は一瞬ためらったけど、文乃が黙っているので話し出した。
解放されたはずだった相手が戻ってきて、どうやらまた付きまとい始めたみたい、というところまで季依が説明すると、文乃はため息をひとつ、ついた。

「ほぼ間違いないよ。付きまとわれてるとまでは思わないけど。
 放課後、部活の見学に来るくらいなら良いって言ったら、本当に放課後まで顔を見せないもの」
「そのイジメッ子、ほんとにぶん殴ったの?」
仁保子が心配そうに聞く。

「実は、グーでぶん殴った」
「うわーーっ」
三人同時に声を上げた。
「男の子だったんだ。今考えれば、ヒメのことが気になって、ちょっかい出したかったんだろうって思うんだけど」
「好きな子に意地悪しちゃうって、アレね」

文乃は、多佳子の言葉にうなずいた。
「でも、少し行き過ぎた。楽器に向かって、カッターナイフを振るおうとするの、許せなかったんだ」
多佳子たち三人も、文乃の気持ちに同感して、うんうんと相槌を打った。
そのあと男の子がどうなったかまでは、聞ける雰囲気ではない。

「さて、提案です」
多佳子は右手を顔の横に挙げ、掌を見せた。
「八重樫さんが文乃から離れられないのは、文乃は絶対に味方だと信じてるからだよ。
 文乃ばかりを頼りにしていた頃のままで、日本に帰ってきちゃったんだ。
 逆に言えば、文乃以外は味方だと思えない、味方かどうかわからないからだと思う。
 だから、味方が増えれば、文乃べったりでなくても済むようになるんじゃないかな」

他の三人は、無言で聞いている。
「八重樫さん、バイオリン弾けるんでしょ?〈ミニム〉に引きずり込んじゃおう」
うすうす結論を予想していた季依と仁保子は、笑って同意した。
肝心の文乃は不安そうだ。

「そんなことで上手くいくのかな」
「大丈夫だよ、文乃」
仁保子は、文乃の背をぽんと叩いて、
「実はね」
続けて、告白を始めた。


 ■back