≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

27 部活禁止期間

中間試験の週とその前の一週間は、クラブ活動禁止期間だ。
帰りのホームルームが終わると、教師たちが生徒の下校を監視している。
帰りしな、それでもつい音楽準備室に集まった一年生四人は、見回りに来た教師がにらむ中、早々に鍵をかけて退散した。
先輩たちは慣れているらしく、顔を見せなかった。
「何もあんなに厳しくしなくても、どうせあたしたち自身の成績のことなんだから、あたしたちの自由なのに」

昇降口で靴を履き替えながら、季依がぼやくと、文乃が同意した。
「賛成。 義務教育じゃないんだから、人から言われて勉強するとか、部活禁止なんてスケジュールを強制されるとかは間違ってる」
「強制されるのはいやだけど、学校としては進学率キープが最大の目標だろうからね。
 内申点に関わる定期テストも、そこそこ良い点を取ってもらわないと」

仁保子は、妙に物わかり良さげな意見を披瀝する。
「簡単な問題にすりゃ良いじゃん」
「そしたら肝心の大学受験に必要な学力レベルに届かなくなるじゃないの」
どちらにせよ、二週間、学校でユニットの練習はできない。
せいぜいテスト勉強に励もう。

中学では、授業さえ真面目に聞いていれば、そこそこの成績を取れたものだけど、高校の授業はそうはいかない。
ある程度予習復習をしないと、ついて行けないことがある。
この部活禁止期間くらい、みっちり復習しないと、わざわざこの学校を選んだ甲斐がなくなる。
とは言うものの、そういうときに限って他のことがしたくなるものだし、なぜかそっちの成果が上がるものだ。
頭ではいけないとわかっているけど、きっと、ついギターに手を伸ばしてしまうだろうな、と思いながら多佳子は革靴を履いた。

ちょうど梅雨の季節で、季依や文乃が、雨の中、楽器を持って歩かなくて済むのが幸いといえば幸いだ。
校門の周りに、ガクアジサイが青く輝いている。
土が酸性だと青くなるんだったっけ?
いや、土の酸性度だけでは決まらないって、最近どこかで聞いた気がする。
漢字で〈紫陽花〉と書くのは他の花との勘違いだったんじゃないかって話も、同時に聞いた覚えがあるけど、どこで聞いたか思い出せない。
いつもより早いバスに乗って、多佳子はぼんやりとアジサイのことを考えていた。

多佳子が家に帰ると、妹しかいなかった。
ハハも働いているので、多佳子が部活なしのときは、ハハより早く帰り着いてしまう。
小学生の妹は、もちろん〈鍵っ子〉だ。
「夕飯頼むってー」
「ええー?こっちはテスト期間だから早いんだよ?テスト勉強しなくて良いっていうの?」
「知らないよ。ハハがそう電話してきた」

「どうして直接電話よこさないんだか…そうか、うちの学校、一応ケータイ禁止だもんな」
携帯電話を学校へ持ち込むのは、表向き禁止されている。
ろくに守られてはいないけど、校内では電源を切っておくのが最低限のマナーだ。
見つからないようにしていれば、教師もあえて探すつもりはないらしい。
でも、うっかり鳴らして停学を食らった例があるとは聞いた。

「メールでもくれれば良いのに」
そしたら帰りのバスの中でチェックして、心づもりができるというものだ。
でも、帰る途中か、帰ってからかで、そんなに変わりがあるわけでもないか。
そう考え直した多佳子は、あきらめて制服を着替えると、お米を研ぎ始めた。
漬け置いてる間に、食材のストックを確かめる。

キャベツ、人参、ピーマン、もやし、玉ねぎ。
豚バラ切り落としもあるし、こりゃ野菜炒めだね。
手間も時間もかからない。
ニンニクはなかったかな。
ニンニクって漢字ではどうだっけ?


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