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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

24 花の名前

「ところで、さっきも加賀谷先輩に、ユニット名はどうなったかって訊かれちゃった。みんな、考えてた?」
多佳子が話題にすると、まず季依が答えて、
「〈ウィード〉ってどう?英語で雑草のことなんだけど、強くたくましくって意味で」
「〈ウィード〉は〈喪服〉の意味もあるから、どうかな」
文乃の慎重な意見。

「え?そう? …じゃあ〈エキナセア〉は?
 ハーブの一種だけど、ピンク色のかわいい花なんだ」
「今度はたくましくじゃなくて、かわいい系?
 ハーブなら、カモミールとかタンジーとかも、かわいい花だと思うな」
「えー?ピンクの方がかわいいと思うなー」

「ちょっと待って。とにかく書いてみるから」
多佳子はレポート用紙を出して、〈ウィード〉〈エキナセア〉〈カモミール〉〈タンジー〉と書き出していく。
「花の名前だと、〈クレマチス〉とイメージがかぶらない?」
と、仁保子はやや批判的。
「何よー。じゃ、仁保子や文乃はどんなのが良いのよ?」

「あたし、フランス語っぽいのがステキだと思うな。
 〈ピサンリ〉ってタンポポのことなんだけど」
仁保子の案もメモしていく。
「今、自分で花の名前はどうよ、って言ったばかりじゃないの」
「あはは、そうでした。〈カランドリエ〉はどう?暦のこと。語感がきれいで好きなんだけど」
「そういうフランス料理のお店があったよね」

「じゃあ、〈アンパッサン〉とか」
「何それ?」
「チェスで、ポーンの特別な動かし方だよ。〈通過捕獲〉って訳すんだけど…」
文乃が解説する。
「アンパンマンみたい」
「季依だって、文句ばっか。文乃は?」

「色の名前なんか良いかなって、〈カドミウムブルー〉とか〈コバルトオレンジ〉とか考えてみたんだけど。
 たいてい、カドミウムは赤系、コバルトは青系だから、ありえない組み合わせだと面白いでしょ」
「〈カドミウム〉って、公害病のイメージがあって、怪しくない?」
季依の意見に多佳子も、
「色の名前というより、絵の具というか顔料の名前だよね」

「そういう多佳子はどうなのよ」
仁保子に振られて多佳子は、ちょっと詰まった。
自分で話題にしたくせに、漠然としか考えてなかった。
ちょうどケーキと飲み物が運ばれてきたので、テーブルに並ぶまでの間に、あわてて頭の中で言葉を組み立てる。
「音に関する言葉ってことで、ソニック何とかってどうかな。
 〈ソニックブルー〉なんて、きれいな響きかと思ってたんだけど」

「〈ソニックブルー〉って、アメリカのAV機器メーカーだったけど、最近つぶれたんじゃなかったっけ?」
「ええー?文乃、本当?」
驚く多佳子に、季依も、
「え?エレキギターの色じゃないの?縁起悪ーー」
「〈ソニックガールズ〉とか〈ソニックレディース〉とかならどう?」


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