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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

23 学習会

放課後、多佳子は〈雨の降る日はそばにいて〉の歌詞の続きを三人に披露した。
実は、今日の授業中に最後の仕上げをしていたのだ。
「良いじゃん良いじゃん」
「さすが多佳ちゃん」
「良いと思う。二曲めも磐石だね」
概ね好評で、胸をなでおろす。
早速、四人でイントロ、間奏、エンディングの構成を考える。

「漫画の内容からいって、当然ハモりありよね」
物語の中で、主人公の男女がデュエットしようとする。
「うん、考えてる」
季依は胸を叩いた。
試しに、多佳子が弾き語りする主旋律に、季依がハーモニーを乗せてみせる。
三度下の響きが、歌の奥行きを増すようだ。

「多佳ちゃん、スリーフィンガー、やるじゃない」
「わ、ありがと」
「そっちかい」
仁保子がハモリではなく多佳子のギターをほめたので、季依はふくれた。

「季依のハモリは文句ないもの」
「ほんとかしら」
「良いと思う」
文乃がオーケーを出したので、季依も安心したようだ。

土曜日は、本来学校がお休みのはずだけど、毎週「学習会」と銘打った補習があって、実質的に午前授業が行われている。
たいていのクラブは、お弁当を持ってきて、午後から活動する。
事実上、週休一日制に等しいけど、普段より長く部活に時間を使えるのはありがたい。
運動部などは、試合形式の練習に充てるなど、工夫しているようだ。
でも第二器楽班は、延々と練習していても良いことはないと、週日より一時間程度長いくらいで切り上げて帰ることにしている。

今週の土曜日は、ゴールデンウィークに入ってしまっているけど、律儀に「学習会」があった。
まだ明るい時間に練習を終えた多佳子たちは、楽器のお手入れ用品を補充しに、四人で中心市街地の楽器店へ向かうことにした。
中学のころは、特に用事もないのに時々寄ったものだけど、高校に入ってからは、とんとご無沙汰している多佳子だ。
つい、管楽器のコーナーに引かれて、ウィンドウの中を覗き込む。
外国製クラリネットが三本、慎ましやかに立っている。

黒檀の控えめな艶が美しい。
「多佳子はクラリネットだったんだよね」
後ろから仁保子が話しかけてきた。
「うん」
胸に湧き出すものがあって、多佳子の返事は短くなった。
中学の講堂の壇上で、仲間と曲を紡いだのが、遥か昔のような気がする。

トマちゃんは今も一緒だけど、他の高校に行ったみんなはどうしているだろう。
大して買い物があるわけでもなく、がやがやと店をでると、外はまだ十分に明るい。
四人して近くの〈リップラップ〉というケーキ屋さんに入ることにした。
ショウウィンドウを吟味してケーキを頼み、二階の喫茶室へ昇る。

商店街の広い歩道を見下ろす席を占領した。
多佳子はいちごショート、トマちゃんはティラミス、文乃はベイクトチーズケーキ、仁保子はアプリコットタルトと、ケーキの好みはばらばら。
だけど、飲み物はロイヤルミルクティーですぐまとまったのが、何となく嬉しい。


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