≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

14 不良のやること

ひと休みしたところで、先輩たちは帰って行った。
一人残ったキイボードの先輩が、三人の所へやって来た。
「あなた方の相談役になる、二年菊組の加賀谷万里江よ。三人とも楽器を持って来たのね。
 ギター二人とベースが一人ね。ちょうど良いユニットになるとは思うけど、実際に、この三人でやってみる気はある?」
三人は互いに顔を見合わせた。

「やります」
最初に答えたのは多佳子だ。
明るく元気な季依と、真面目で慎重な文乃。
二人とならやっていけそうだ。
「一緒にやってくれる?」
二人を見比べる。

「問題ないと思う」
「何言ってんの。あたしが先に誘ったんじゃないの」
そうだった。
いつの間にか、その気になってしまってた。
ミイラ取りがミイラ…て、この場面ではちょっと違うかな。
ミイラって漢字でどう書くんだったかな。

「よし、決まったね。追い追いユニット名も考えてね。
 ちなみにあたしたち二年生は〈魔神天使〉。〈フィーンド・エンジェルス〉って気取るときもあるわ。
 三年生のユニットは昨日会った〈クレマチス〉と、もうひとつ〈琅かん堂〉
ユニット名か。
何か、カッコ良い名前があるかなあ。

「来週から、一階の一年生の教室を練習に使えるわ。
 あなた方には悪いけど、一年生ユニットは今日デモに使った一番遠い葵組。
 ひとつ置いて菊組は私たち二年生、またひとつ置きに萩組と蘭組を三年生が使います」
部室から機材を運ぶのにたいへんな遠い方を下級生に与え、お互いの音が少しでも邪魔にならないように、教室をひとつ置きに使う、ということらしい。
ちなみに、音楽室は器楽部本隊の縄張りで、音楽部、つまり合唱部は、別棟にある小講堂を占領しているそうだ。

「アンプや譜面台は、その奥に卒業生が使ってたのがあるから」
鉄琴や木琴が押し付けてある方を指差す。
「第二器楽班は、見てのとおり、建前上、器楽部内部のチームなの。
 昔、独立したクラブを作ろうとしたらしいんだけど、職員室がうんと言ってくれなくて。
 〈フォークギターだのエレキギターだの、不良のやることだ〉って。笑っちゃうわよね」
歯を見せて笑う。

「当時のメンバーは器楽部の部員でもあったんで、勝手に第二器楽班ということにして活動を始めちゃったのね。
 最初は結構風当たり強かったみたいだけど、いつの間にか公然の部活になっちゃってるの」
確かに、多佳子の中にも〈エレキギター、イコール反社会的〉というイメージはある。
それをカッコ良いと感じる部分も、眉をひそめる人がいるのも理解できる。
でも、大昔は映画だって反社会的なものと言われてたそうだし、子供だましとされていた漫画やアニメが、今や日本を代表する文化になった時代だ。

今どき、エレキ、イコール不良(これだって死語だ!)なんて図式を本気にするなんて、それ自体がステレオタイプで恥ずかしいくらいじゃない?
「いまだに、クラブの登録上は〈器楽部〉ひとつなんだけど、代表会議にはちゃんと第二器楽班の部長も出席するし、予算も別々になってるの。
 〈弾力的運用〉ってやつね」

〈班〉なのに〈部長〉なのは、その辺のところがあるのかな。
「だから顧問も、器楽部と同じ音楽の川村先生。
 音楽部も掛け持ちだから、第二器楽班まで口出しすることは滅多にないわ。気楽で良いわよ」
気楽というか、見捨てられてるんじゃないだろうか。

川村教諭は、小柄で少し横幅のあるオバサンタイプ。
いつも黒っぽい服装に、吊り目気味の赤い眼鏡フレームが際立つ。
パーマした肩までの髪も併せて、いわゆる教育ママ的容貌だけど、二、三回受けた授業では、意外とさっぱりとした、気持ちの良い教師だと思う。


※「琅かん堂」の「かん」は、「王」に「干」という漢字。
 IEでは表示してくれないのでひらがな表記しています。

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