≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

13 新勧デモライブ

「さて、今日は一年葵組の教室であたしたち二年生ユニット〈魔神天使〉の新勧デモライブやります。
 シンカンは、新入生歓迎、じゃなくて勧誘のカンね。機材運搬手伝ってねー」
三年生は何か行事があって、今日は来ないそうだ。
アンプはキャスターが付いているので、ごろごろ転がして行く。
葵組は季依のクラスで、音楽室から一番離れた、校舎の端だ。
器楽部本隊の練習の邪魔にならないように、という配慮だろう。

教室に着くと、まだ一年葵組の生徒たちが何人も残っていた。
「はーい、器楽部第二器楽班、ここで新勧デモライブしまーす。みなさん、聴いてってくさいねー」
沼山さんが大声で呼びかけていた。
ドラムセットは転がすわけにいかない。
大きさの違ういくつかの太鼓やシンバルを、ピストン輸送する。

一番大きな太鼓には、小さな太鼓が二つ生えていて、見るからに運びにくそうだけど、それを文乃は涼しい顔で持ち上げた。
「こ、小山石さん、力持ちー」
「慣れてるから」
そうか、南中はドラムセットも使っていたし、文乃はあの大きなコントラバスを扱ってたんだ。
すごいなー。

他にマイクとマイクスタンド、譜面台、ケーブルにコードリール。
これほどたくさんのモノが必要だとは、思いもよらなかった。
先輩たちは、自分の楽器本体だけ持って、楽をしている。
ドラム担当は、スティックと何だかごちゃごちゃした器具(後でセットしたのを見たら、大太鼓のペダルだった)を手にしていた。
上級生の特権だなー。

機材を運び終わったら、今度はビラ配りだ。
「四時から二年菫組の教室で、器楽部第二器楽班のデモ演奏やりまーす」
二年生に混じって、新入生たちにビラを配って歩く。
昨日も配ってたそうだけど、多佳子たちは早々に音楽準備室へ行ったので、ビラ配り部隊とはすれ違いだったのだ。
一年生なのに新勧活動に加わっている多佳子たちを、怪訝そうに見る菫組のクラスメイトにも、ビラを押し付けた。

〈魔神天使〉は五人編成のロックバンドだ。
ギターが二人、ベース、キイボード、ドラム。
キイボードは、ギターのように肩から吊って弾くタイプ。
ボーカルはギタリストが兼ねている。
結構人気があるらしく、教室は満員だ。

ただ、肝腎の一年生より、二年生が多い気がする。
それも、人気の現われなのだろう。
さすがに教室でのライブということで、ドラムにはそれぞれタオルをかぶせてミュートしてある。
キターやベースも音量を絞って、大迫力とは言い難い。
それでも、歯切れの良い演奏で、気持ちよく聴けた。

「器楽部第二器楽班!入部よろしくねー!」
最後に、ボーカルの沼山部長が叫んで、お開きとなった。
再び機材運びだ。
やっと片付けが終わると、くたくたになっていた。

「お疲れさま」
「ありがとね」
「これ飲んでー」
〈魔神天使〉のメンバーは、水筒にスポーツドリンクを用意していた。
紙コップにその冷たい飲み物をおごってもらっても、多佳子と季依は気の抜けた返事しかできない。
文乃だけは、背筋を伸ばして平然と飲んでいる。


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