≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

12 逆襲

「第三クラが落ち着いた音出してるのが良いなと思って聴いてた。核になってるのが吉田さんの音だった」
「は?」
「目立ってた」
「ええーー?」
何を言い出すんだ、この人は。

「赤くなった。吉田さん、かわいい」
ぎゃ、逆襲されてしまった?
「からかわないでよ。三クラが目立つわけないでしょ」
「人をからかうのは嫌い」
真顔で、じっと多佳子の目を見る。
確かに、そういうキャラじゃないよね。

「中低音が音楽を支えてる感じが好きなんだ。だから第三パートや、ユーフォやベースの音を追いかけてしまう」
なるほど、中低音を良く聴いているんだ。
その上で褒められるとは、嬉しいような恥ずかしいような誤解されてるような。
当然、何かの勘違いだとしか考えられないけど。

あ、今、こっちから訊かなくても話した。
打ち解けてきてくれたのかなあ。
「実は昨日ね」
帰りに文乃と別れた後、季依の家に寄って、ギターの初歩を教えてもらったこと、季依が書いた曲を聞かせてもらったことを話した。

「あたし、ギターは初心者なの」
もし一緒にやるとしたら、きっと足を引っ張っちゃう、という含みのつもりだったけど。
「わかってる。それは昨日聞いてた」
わかってもらえたのかしら。

放課後。
スクールバッグに教科書なんかを詰めていると、季依が来た。
「部室、行こ」
「あの音楽準備室、なんだか物がごちゃごちゃあって、あんまり〈部室〉って感じがしないよね」
「え?そうかなあ」

「あ、小山石さんも、一緒に準備室行こうよ」
荷を詰め終わって、立ち上がった多佳子は、文乃にも声をかける。
三人そろって準備室へ行くと、もう沼山部長たちが来ていた。
「お、来たね、クラッカー吉田さん」
「は?」

「セイフクラッカーといえば、金庫破りのことよ」
「えええーーー?」
人聞きの悪い。
「堪忍してくださいよ、部長ー」


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