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  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

03 器楽部第二器楽班

「で?入部希望ね?」
悠紀さんが微笑む。
「へ?」
季依を見やると、にやりと笑い返してよこす。
「一緒にバンド、やってみない?」

「え、えーーー?」
晴天のヘキレキ。
ヘキレキってどんな漢字書くんだっけ、なんて関係ないことを思いながら、多佳子は抵抗を試みる。
「バンドって、そんな、エレキとかエレキとか、あたし触ったこともないのに」
慌てて舌を噛みそうだ。
「器楽部ってマンドリン合奏とかじゃなかったんですか?」

おしまいは悠紀さんに訊く格好になった。
「うん。器楽部〈本隊〉はマンドリン。あたしたちは別働隊〈第二器楽班〉なの。
 吉田さんはマンドリンの方が好き?」
良く見ると、奥の先輩たちが持っているのもマンドリンではなく、ギターだ。
「いえ、あの、その、好きも嫌いも、マンドリンだってあんまり聞いたことないし、近くで見たこともないですう」
我ながら情けない声になった。

季依が多佳子の両手をぎゅっと握る。
「騙されたと思って、試しにやってみようよ。ね」
両目をぱちぱちさせてる。
そんなーー。
さっきだって、騙されたと思って連れて来られたのに、さらに騙されろと?
「あ、あたし、だって、楽器持ってないしい」

「実は、あたし、入学祝にエレキギター買ってもらったんだ。だから、あたしのフォークギターを貸すよ」
「え、えーーー?」
季依の目がきらきら輝いている。
コイツ、この目で言い出したら危険なんだ。
それにしても、季依が中学時代からギターなんか弾いてたとは知らなかった。

「な、なんであたしなのお?」
季依は真面目な顔になった。
「去年音楽の授業でギターを少しいじったじゃない。多佳ちゃん、左指がきれいに立って、良い音出してたわ。
 あれってクラシックギターだから、フォークギターやエレキギターよりネックも弦も太いのよ。
 フォークギターなら、きっともっと楽に上手に弾けるよ」

「え、えーーー?」
そりゃ、クラシックギターとフォークギターの違いくらいわかるけど。
「それに、中学で部長やってたとき、部員で一番頼りになったのが、多佳ちゃんだった。
 高校でバンドやるなら、絶対多佳ちゃんと一緒にって思ってた」
何よ、その突然調子の良い殺し文句。

「だったら、合格決まってから今までの間に、何か言ってくれるもんじゃあないのお?」
「そんなツレないこと言わないでさあ」
誤魔化す気だな、コイツ。
「まあまあ、お二人さん。ここで揉めてないで、見学者らしく演奏を聴いてみてくれない?」
悠紀さんが割って入った。

「ちょうどチューニングが終わったとこだったのよ。
 じゃあ、〈たんぽぽ〉、やってみようか」
奥の二人に声をかけると、
「OK」と、一人がポーンとひとつ弦を弾いてから、おもむろに胴を三つ叩いてリズムをとった。


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