≪器楽部第二器楽班≫  ■back 
  □数行毎の空白行は、読みやすさのためで、他意はありません。

02 悠紀さん

音楽室の隣。
柱から廊下に突き出した黒い札には、白文字で〈音楽準備室〉とある。
上半分がガラスの、サッシの引き戸。
ガラスの真ん中に内側から、ゴシック体で〈器楽部〉と大きく書いた紙が貼ってある。
その下に少し離して、一回り小さい〈第二器楽班〉という紙もあった。
第二器楽班?

さらに、赤文字の〈新入部員歓迎〉の赤文字。
ガラス越しに、何人かの生徒が見える。
胸に着けた学年章は、小さくてよく見えないけど、どうやら三年生のようだ。
テーブルを囲むように座っている。
季依はガラスを軽くノックして、戸を開けた。

「こんにちはー」
「あら、キエちゃん」
向こう向きに椅子にかけていた長いストレートヘアの上級生が振り向いた。
銀縁眼鏡の知的美人。
テーブルを挟んだ向こうの二人も「いらっしゃい」と声をかけてくれる。
近づくと、学年章から、三人とも三年生だとわかった。

いつもなら「キエじゃありません」と目を吊り上げる季依なのに、相手が三年生のせいか、何も言わない。
部屋は意外と広く、奥行きもあるけど、奥の方には鉄琴や木琴など、何かごちゃごちゃと寄せてあって、使えるのは三分の二くらいの広さのようだ。
季依を〈キエちゃん〉呼ばわりした先輩には、見覚えがある。
申し訳ないけど、他の二人に比べて、圧倒的に存在感があった。
切れ長の目が怖そうだけど、綺麗な人…そう、中学の先輩だ。

「ピッコロの小田桐さん!」
「あら、覚えててくれたの。嬉しい。えーとクラの吉田さんだよね」
多佳子が一年生の時の三年生、小田桐悠紀さん。
あの頃も大人っぽかったけど、もうすっかりオトナの女性の雰囲気をまとっている。
悠紀さんこそ、良く多佳子の名前など覚えていてくれたものだ。
こっちこそ、嬉しい。

その悠紀さんは、制服のスカートの中で足を組み、その上に楽器を構えていた。
「え?」
間近で見るのは始めてのその楽器は、
「エ、エレキギター…ですか?」
はからずも「ご無沙汰しました」の挨拶もしないうちに、言葉が出てしまった。

「ブッブー」
悠紀さんは楽器ごとこちらに向き直りながら、笑顔のまま不正解を言い渡した。
「これはエレキベース。
 ま、うちの中学はイナカで頭がカタいから、吹奏楽に電気楽器なんか使わなかったものね。
 今だってそうなんでしょ?ギターと見分けつかなくても無理ないか」
うふふ、と笑う。

なるほど、正面から見ると弦が四本しかないし、それもギターよりずっと太そうだ。
ギターの弦は、確か六本。
そういえば、他の中学の演奏会ではエレキギターやエレキベースを使っているところもあった。
高校の吹奏楽部では、ドラムセットまで加えているのはザラだ。
でも、多佳子の中学には、弦バスすらなかった。


 ■back